「彦馬がゆく」  東京サンシャインボーイズ

ラヂオの時間」は良かったけど後を引く程じゃなかったので実はこの芝居、チケットを取ってなかったのだ。ところが急遽姉が仕事で行けなくなったためにお鉢が回ってきたのだが・・・ありがとう姉ちゃん!!もうちょっとでこの素晴らしい舞台を見逃すとこだったかと思うと今や空恐ろしい。ストーリーは幕末日本のとある写真屋が舞台で、そこに勤皇・佐幕派問わず幕末の志士たちが写真を取りに来る。写真館の主人、神田彦馬はその人物が誰であろうと、どんな思想の人物であろうと写真を撮る。そしていつも写真を撮るときこう言う。
「今までで一番楽しかったときの顔をして下さい。」

写真を撮りに来るのは桂小五郎西郷隆盛近藤勇などだけど、これが1人づつ来るたびに何かしらトラブルがあってもー笑える笑える。前回の「ラヂオ〜」で怪しいアナウンサーをやっていた相島一之さんが、お調子者のケツも頭も軽い役をやっててホントに同一人物かい!と思った。芸達者なのねー。その他彦馬を小林隆さん、桂を梶原善さん、坂本龍馬を西村雅彦さん、近藤勇阿南健治さんがやっていて、もちろん他の役者さん達も素晴らしかったのですが、私は特に西村さんの坂本、阿南さんの近藤がもう最高に好き。何せ西村さんの龍馬、全然いい人じゃない。その上こずるい。だけど私が今まで見たどんな龍馬よりも人間くさく、そして格好良かった。龍馬はスーパーマンなんかじゃなく人間だ、人間くさくない龍馬なんか、私は全然感情移入出来ない。龍馬によって傷ついた人も傷つけられた人もたくさん居たはず。それでも尚且つそれでも龍馬はすごいと思わせてくれた初めての芝居だった。

そして阿南さん!!これ近藤勇は最初写真を撮りに来たときにどうしてもうまく撮れなくて、そして後半勤皇派に追いつめられてからもう一度彦馬のところに写真を撮りに来るんだけど、その時に「今まで一番楽しかったときの・・」って言われてカエルの話をしようとする彦馬を手で制して、んもーーー最ッ高の笑顔を見せるんですわ!!ホントに最高の!!あーーー思い出しても涙がでるっっ!この間までどうしても「今までで一番楽しかったときの顔」がうまく出来なかった近藤が、この時何を思ったんだろう?この短い間で、彼の中に何があったんだろう?そんなことにまで思いを巡らさずにはいられない素晴らしい説得力を持った表情でした。すごい。なんの台詞もないのに。笑顔ひとつなのに。

それ以外にも書きたいことはたくさんたくさんあるけれど、もう書いているときりがないくらいで書ききれません。クヤシイ。
でもラスト、神田家全員で写真を撮った後の伊藤さんのモノローグは(覚えている限り)そのまま書く。
「この写真は今でも、僕のアルバムの一番最初のページにはってある。あれからいろんなことがあったけれど、父の写真の中では、父さんも母さんも、姉さんも兄さんも、桂さんも坂本さんも、みんなみんな、自分の人生で一番楽しかったときの顔をして微笑んでいる。」
・・・・そして大崩しになる家。バックに見える桜。あーーーーーーーほんとに最高だった。あんなに泣いたのは何年ぶりだろうか、とゆうぐらいわんわん泣いた。ちょうど芝居への熱がホントに冷めてきた時だっただけにこの芝居で救われた部分は大きかったと思う。何十本と見てきた中でも、ホントに数少ない、一生の宝物になる芝居、でした。

これは脚本も出版されておらず、ビデオなんかもちろんありません。だからあの阿南さんの笑顔も、伊藤さんのモノローグも、最後の桜も、私の心の中にしか残ってないです。この記憶は本当に私にとっての宝物ですね。
ちなみに”上野”彦馬という写真家は幕末本当にいました。