「萩家の三姉妹」二兎社

地方の名家、今は地主とは名ばかりの旧家萩家の三姉妹。長女鷹子は大学でフェミニズムを教える助教授、だけど自らの恋愛と自らの学説の不一致になんとも歯がゆい思いを抱いている。次女仲子は歯科医である夫と結婚し子供も二人、絵に描いたような幸せ夫婦。だけど優等生的自分にちょっとうんざりな今日この頃。三女若子はなりたいものはこれから探す、今はとにかく気楽にさせてなプー太郎。チェーホフの「三人姉妹」さながらに、舞台は父親の葬式の回想から始まります。

評判は前から聞いていて、永井愛さんの遅れてきたファンとしては是非とも見たかった作品。いやー期待に違わぬ面白さ!!各々のキャラクターの造形もいいし台詞はもちろん秀逸だし。特に二幕冒頭の「別れた男女におけるフェミニズムジェンダーの相克に関する体験的共同研究」(難しい言葉使ってますが内容が難しい訳ではないのでご安心を)、この本所さんと鷹子さんのやりとりはもう、歴史に残る名シーンと言っても過言ではないと思うぞ!恋愛を扱う芝居は多いがここまでセックスを真正面から見つめすぎた、そして面白く描いた戯曲があったろうか?あけすけで見も蓋もないことをしかしだからこそ面白く愛しく書くことに完璧に成功しています。いやもうあまりの面白さに笑いすぎて涙が出てきたっつーの。しかしこれは永井さんだからこそ書ける台詞なのかもしれないなあ。あえて逆差別的な言い方をさせてもらえれば、男の人ではああは書けないと思う。

私も、パンフの上野千鶴子さんの言葉を借りれば「自分のやってることをすべて言語化しないと気がすまない」鷹子さんに似通う部分がないわけではないので、あのシーンはおかしくもあり痛くもあり。いやでもホントいいもの見せてもらいましたって感じ。もちろんそれだけではなくて、次女の仲子の不倫話も、真剣で切羽詰まってるのにその必死さをどこかで突き放して描いているような視点がちゃんとあって、こういう話だと抱きがちな辛気くさい感じは全然ないし、三女の若子の「なんにもなりたくない女」もなんだかそれなりに胸うたれる所もあったりして。それ以外のキャラにもそれぞれの「男らしさ」「女らしさ」との戦い方、折り合いの付け方に考えさせられるし、なんともてんこ盛りのおいしい作品。三姉妹の三人三様の「選択」が終盤一気に浮かび上がってくるあたりちょっとぞくぞくしましたね。そこからラストがいきなり三人姉妹テイストになるのでなんだか不思議な感じはするものの、いやしかしこれはやはり傑作・名作だと思いますです。

えり子さんに若干のカミがあった意外は役者さんもみなさんうまいうまい。客席の年齢層がちょい高めではあるんだけど、これを熟年層だけのものにしておくのはもったいないぞー!って感じです。地方公演もたくさんあるし、是非とも見に行くべし!