「ア・ラ・カルト」

  • MIDシアター  Bブロック7列1番
  • 演出 吉澤耕一

昔から観たいと思ったものや評判のいいものは出来るだけチェックするようにしていたので、あああれ観ておけば良かったなあと思うものは少ない方、だと思う。もちろん大人計画とかあーもっと早く出会いたかったよ、と思うものもありますが地方ではなかなか難しいし、このタイミングで出会えたからこそ好きになれたんだろうなと思う部分もあって、そんなに激しく後悔するという感じではないんです。
でもこのア・ラ・カルトは見れば見るほど知れば知るほど後悔する。もっと、早く、観にこれば良かった。15周年のパンフレットに書かれた公演記録を見ると、あの時もこの時も見れたのにな、一体何をやってたんだろう私と思ってしまうのです。
今年で開店15周年の素敵なレストラン。私はまだこのお店に通い初めて2年目の、ペーペーの新人です。

今年のオープニングで女性が頼むカクテルは「ギムレット」。ギムレットと言えばチャンドラーの「長いお別れ」ですが、去年はブラッドベリの「メランコリーの妙薬」を思わせるオープニングだったので、毎年何か小説を隠し味で持ってきてるのかしら?とか思ったり。男のほうはずっと友情以上の思いを寄せているのにそれに気がつかない女性、のシュチェーション、こういうタイプの男性をやらせて羽場さんの右に出るものはいないのではないかと思うほどはまりすぎ!まった男前なだけに余計哀愁が漂うというか。高橋&典子の相変わらずぶりも楽しいし、そしてショータイム!!!タキシード男3人のまぶしさにくらっ。ペギーさんの妖しさにくらっ。羽場さんの久しぶりのコミカルな持ち味炸裂にうるっ。しかしなんと言ってもセルジオだよね!セルジオでしょう!もう、私の中の恋心がマックススピード。光速出たかもしれない。たまらんなあの腰つき!しかもシースルー。でもシースルーですらまどろっこしいわ、脱いで!そんな気分にさえなります。

コーヒーのおじいちゃんおばあちゃんに向けてこちらの気持ちもどんどん高まってくるんですが、今年はデザートの父娘にもしてやられた・・・。トロンボーンで聴かせるおかしくも可愛らしい「茶色の小びん」、5年間海外赴任しちゃうパパへのおしゃまなメッセージを携帯に吹き込んだあとふと黙り込んでしまう女の子。そこに再び小さくながれる「茶色の小びん」・・・。もう号泣。そのあとのおじいちゃんおばあちゃんのダンスはもう、言葉では言い表せない。
静かに出ていくふたりを見送り、ギャルソンがそっとテーブルに近づく。キャンドルの火を一つ一つ吹き消し、老夫婦が居たテーブルにかがみ込んでふと思いついたかのように胸のポケットから煙草を取り出す。ゆっくりと口に煙草をくわえ、テーブルにかがみ込んでキャンドルから火をつける。ゆっくりとゆっくりと吐き出される煙。だんだんと落ちていく照明の中で、ギャルソンのシルエットだけが浮かび上がる。
静かで、静かすぎるほどのこの一連のシーン。ですが、私が今まで見た中でも屈指の劇的瞬間、だと思う。何度でも、何度でも見てみたくなる。完璧という言葉を使いたくなります。

毎年、毎年この芝居を見て、一瞬を共有してまた去っていく観客。でも心の中でみんな思ってる。来年も、このレストランに来れますように。また来年も、変わらずにこのレストランがありますように。そんな思いを観客に抱かせて15年。15周年おめでとうございます。来年もまた、どうぞよろしく。