「透明人間の蒸気」

劇団で初演された91年から13年ぶりの再演。透明人間となってしまった詐欺師の男と、砂の響きをたよりに生きる目の見えない女との出会いの中に、物騒な番台と20世紀を詰め込んだお話。

うーんうーん。なんなんだろうなあ。なんか、しっくりこないんだよなあ。ここ2,3年の各年のベスト1が大抵野田さん絡みになってしまっている野田シンパな私ですが、どうもなんだか、しっくりこない。実はというのも何ですが、初演のときも「ピンとこねえなあ」と思ったんですよね。でもそれは、ケラとアキラの表面上の物語に目を奪われすぎてしまって、番台や20世紀は関心の外だったからというのもあるんだと思う。昨年RUPでこの作品が再演されて、まあ評判は散々だったわけですが、「透明人間の蒸気」って、こんな話だったんだ!ということに気が付かせてくれただけでも私にとっては価値あるものでした。だから改めて野田さんの演出でこの物語に触れることができるというのは非常に楽しみだったんですが・・・野田さんが描いたホンなのに不思議ですが、なんだか野田さんと波長が合わない気がする、この話。というか、私と波長が合わないだけなのか。うーん。

ボール紙みたいな素材を敷き詰めて、足跡が残っていく装置とか、布を多用した美しい風景の出現する様などは、さすが野田さん!って感じですごくきれい。衣装はちょっとあざとすぎか。せっかく広い劇場なので、もっと動きが出る衣装で見たかった気も。終盤のセリフ(というかシーン)を丸ごと削ったのは、「ロミオとジュリエットが悲劇で終わったのはもう昔のことだ」という初演時のキャッチコピーと、そのせいでこの物語全体が甘いオブラートで包まれてしまうのを嫌ったからなのかしらと邪推してみたのですが、それにしてはあまりにぶつ切りで、あれでは収束感に欠けてしまう気もしました。

キャストに関しては、まったく文句なし。サダヲちゃんはちゃんと「阿部サダヲカラー」を打ち出しているし、素晴らしく軽い身のこなしは必見。ラストがカットされたことで、最大の見せ場が奪われてしまった気がして残念です。宮沢りえちゃんは、野田作品のヒロインにがっつり収まっているところがいやはや凄いなあと。あの可愛さは人外魔境。後半もうちょっとトーンの切り替えが欲しい気もしたけど、それはおいおいかしら。あと、初演・RUP版含めてもっともハマリだ!と思ったのは手塚さんの華岡軍医かな。いやはやまったく期待通り!場を圧する異様な迫力を拝ませていただきました。急遽代役で決まった池谷さんの住友花子も素晴らしかった。ある意味池谷さん以外もう考えられない。

あの中劇場の奥からキャストが駆け込んでくるだけでもう充分な劇的効果だ、というのを野田さんはさすがに知り尽くしていて、持ち駒勝負だよなあと思いながらもうっかり目をうるませてしまったりしていたんですが、まったく別の人の手でこの物語を見てみたい気もしたり、なかなか思いは複雑でございます。