「ドライブインカリフォルニア」日本総合悲劇協会 

  • 厚生年金会館芸術ホール F列28番
  • 作・演出 松尾スズキ

面白かったぁ。しかし私も含めて松尾スズキを好きで大人計画を好きで見に行こうなんていう人はもう「ドロドロ悲劇耐性」というのが出来上がっていて、この芝居を観ても「あ、結構イイ話じゃん」なんて思ってしまったりするのだが、振り返ってみたらマリエという女の業はすごすぎて深く考えると落ち込みそうだ。「死んでもいい」なんて声が聞こえるなんていうのは業でもなんでもないが、そんな彼女自身の回りで(そして本当にある意味彼女のせいで)人が死んでいくというのは重い。多分彼女の母親も、娘が見ていた首吊り縄を外そうとして死んだんだろうし、彼女の息子もそうして死んだ。父親はヤケになって大惨事を起こすし、一人残った兄は極度のシスコン、出会った夫は同じ人種で呆気なく先に逝く、とここまで揃えればいやもう勘弁して下さい、である。しかしだからこそ、最後の奇跡が圧倒的すぎて、なんだか「いい話だったわ・・・」という感触で帰路についてしまうのですが。

アキオが一人マリエを慰める言葉を考えていて突然「ボキャブラリーにない言葉」を滔々と語り出すシーン、それを大辻がわかりやすくかみ砕いてマリエの前で披露してみせるシーン、更にはそれが口惜しくて「宇宙なんて見えるところまでしかない!」と逆ギレするアキオのシーン、どれも好き(笑)そして本当に「忘れた頃にやってきた」松尾さんの山口の復讐シーンも好き。最後の花が電飾だったんだけど、もうちょっと量で圧して欲しかった気もする。それよりも個人的にはオープニングの、店の裏に一斉に竹林が見えるシーンの方が鳥肌ものだったなあ。

私は片桐はいりさんという方を舞台で見かけるたびにほんとーになんってカッコイイんだろうと惚れ惚れするのですが、今回も見事なキャラの立ちっぷりですごかった。秋山さんや田村たがめさん、猫背椿さんも、初演からの続投組で完成度高いなーという印象。あ、そうしてみると女性陣は小池さん以外みな続投組だったんだねえ。その小池さんも体当たり演技といいナイスバディぷりといい最後のセリフといい、すごくうまくはまっていたと思う。男性陣ではごめんなさい、もう仲村トオルにしてやられましたね、ええ。おそらく男性陣の中で笑いの最高瞬間風速はあの飛び道具荒川良々さんをさしおいて彼に吹いていたんじゃないでしょうか(笑)ヘリコプターといい俺はいい男だといい・・・渋く決め過ぎなのがいちいちおかしい。それに仲村トオルさんに「どうだ、俺面白いだろ」みたいなやらしさがないから余計笑える。トモロヲさんはなんだかつかみ所のない感じなんだけど、ストーカーまがいの電話をかけているところが絶妙にいやらしくて良かったなあ。ふつーのテンションなのにすっげえキレてる感じがするところとかちょっと怖かったです。あと、村杉さんがすごい良かったと思う!なんか村杉さんぽい部分がうまーく消えてちゃんと「じっちゃん」になってるしでもらしさは残ってるし。ユキヲと二人のシーンはなぜかほのぼの。

当たり前だけど死んだ方より残された方がタイヘンだし重いし辛いし、残され続けてきたマリエは竹林からの「生きてもいい」という声を聞きながら、その重すぎる荷物をどっこいしょと背負っていくのかと思うと、ああ、やっぱり深く考えるのはやめようと思ってしまう弱い私・・・