「贋作・罪と罰」NODAMAP

  • シアターBRAVA! 1階K列6番
  • 作・演出 野田秀樹

初日開いてもう2ヶ月ですよ!長かった。長すぎてもう自分がまだ観てないのに観た気になるほどだった。舞台正面側下手4列目より観劇。

演出が格段に洗練されているなと感じました。光と影の使い方がすごく心に残った。照明いいですよね〜。カーテンは効果的なときとそうでないときとあったような気がするな。カーテンの動きがなくても展開していけるのになと思う場面がいくつか。何度も動くと、またかと思ってしまうし。対面型の変則的な客席にしているからか、声がちょっと方向によって聞こえづらい時があったのは残念。

野田さんの作品の中ではっきりと「原作」があるものって「桜」「半神」とこれぐらいだと思うんだけど*1、個人的にこの戯曲はその3つの中では最もぴんとくるところのないもので、好きな舞台ではあるんだけど・・・なんだろうな。このテーマを自分に引き寄せて考えることがたぶん苦手なのね。今回再演するにあたって野田さんが「初演時はオウムの事件があって云々」と言っていたけども、初演を観ているとき私はあの宗教団体のことなんか頭に思い浮かべもしなかったんだなあ。「宗教」「思想」という言葉にどうしても警戒心を先に感じてしまうところがあって、それがこの舞台に対する自分のスタンスも決めてしまっているのかもしれない。

「思想なんてたかだかそれっぱかしのことじゃないか」という才谷がいちばん引き寄せられるところではあるんだろうけども、そうでもないのが難しいところだ(笑)いや、才谷はいい男だけどね!

松さんの英、ぴったりだったなあ〜。すごく硬質で潔癖な雰囲気が良かった。大竹しのぶさんの英とはやっぱり全然違うわねえと思った。いや、それはどのキャストもそう思ったんだけど。大竹さんの英の方が、もっと女だったなあと松さんを見ていて思いました。女塾生という英の設定からすると、松さんの方がイメージだったかも。大竹さんは「私の罪がわからないの」と言いながら誰よりも自分がわかっている感じがあったけど、松さんは言いながらそれを必死で信じようとしているところがあった。座席の関係で、ここでとうとう信じ切れずに負けてしまう英の顔がまったく見えなかったんで、次回そのあたりをじっくり見たいなあと。

で、松さんの表情は見えなかったんだけどここで英を抱きしめる古田さんの表情を代わりに拝むことが出来まして、もう、いい顔してるんだ古田新太!!ぎゅっと抱きしめるとき、まるで泣いているような切ない顔してるんだよ・・・!この顔をぜひWOWOWの放送で全国お茶の間の皆さんと分かち合いたい!おねげえしますだWOWOW様!!

古田さんてじつは滑舌そんなに良くないし、結構噛むし大事な台詞間違えたりするんだけど、この人ってそういうテクニカルな巧さじゃなくて、やっぱりちゃんと気持を伝えるのが抜群なエモーショナルなうまさが先に立った役者さんなんだなあって思う。

あと、筧さんのやった才谷で最も印象的だった台詞は「死んでもいい人間になど出会ったことがないからだ」だったんだけど、今回はそれは割とすらっと流されていたような。代わりに「思想なんてたかだか・・」の方が耳に残った。古田才谷と筧才谷のキャラの違いかなと。あと、英を抱きしめて言う台詞とかもまさにそれですよね。*2

段田さんの都、うまい、うまいよね。これまた生瀬さんの都と違って老練な味があった都司之助だったなあ。生瀬さんのときのちょっと偏執的なのも好きだったですけど。「相手は灯りに惹かれる虫の如く僕の口に飛び込んでくる」のシーン、すっげよかった。聞きたい台詞は一字一句もれなく聞き取らせてくれた唯一のキャストかもしれない。

マイラバ小松和重さんは「メルス」の時の輝きは薄れていたものの、どこにいても何をしていても的確な演技で良いです。声も好き・・・いい声だよなあ。中村まことさんもなんだか浮かず馴染まず絶妙なポジション取り。宇梶さん、台詞が殆ど聞き取れず。溜水ってそれこそ段田さんくらいうまい人がやって欲しいなと個人的には思う。そして舞台上でこんなに野田さんをうざいと思ったことはなかったです(笑)いや、好きなんだけど役者・野田秀樹も!っていうか聞き取りづらかったのよ声が!

この芝居でいちばん好きなのはラストシーンで、雪のなかでひとり語りかける英の清々しさとその下で繰り広げられる悲劇のコントラストは胸が詰まります。才谷は腕を天に伸ばしたまま死んでいくんだよね・・・独白のあと、英がふと何かに気付いたような表情をするんだけどあれはなんだったのかなあ。このラストは断然、初演より今回の方が好きだなと思ったシーンでした。

*1:「りちゃあど」もそうかもしれないけど

*2:筧才谷は「人殺しって、あったかいんだなあ」だった