「桜飛沫」阿佐ヶ谷スパイダース

  • シアターBRAVA! G列29番
  • 作・演出 長塚圭史

休憩込みの3時間10分、となるとこりゃあもうそーとー覚悟して挑まなければという、長い芝居嫌いの私としてはかなり悲愴な決意をして挑んだのですが(しかも前日睡眠時間2時間だったし)、一部と二部と独立した作品、つまりほぼ二本立ての公演だったというのが個人的には大正解でした。それぞれに「起承転結」があるので「長いな」と感じることがなかったですし、言ってみれば時代小説の短編を二本続けて読んだような感じです。しかもそれが最後にはクロスするわけですから、非常に気持ちよく見ることが出来たなあというのが一番の感想ですかね。

阿佐スパの「はたらくおとこ」が大好きなんですけども、これもちょっとそのテイストを感じさせる部分があって、それも私がこの作品を気に入った理由かもしれません。「はたらくおとこ」での成志さんとまことさんの関係が、佐久間と徳市の関係と被るんですよね。

一部の方が、ひとつの作品としてよりカタルシスがあったのは、やはり最後に徳市が悪漢を圧倒的な強さで斬り殺してしまうという部分があったからだろうと思います。すでに剣を捨てたはずの剣豪が、じりじりと追いつめられ(もしくは民衆のために)やがて剣を再び手にするというのは時代小説のある意味基本の気持ちよさですよね。一部には郷地兄弟という圧倒的な「悪」がいることも、一部の方が話として面白い一因だと思います。

もしかして、山本亨さんの怪我がなかったら、佐久間も最後に立ち回りがあったのかなと邪推はするものの、圧倒的な「悪」をうまく分散させてしまい、その必要性を劇中では感じさせないあたりは長塚さん、うまいなあと舌を巻きます。

ラストシーンで、徳市がとうとう姿を現すところからの展開が最高です。こうなってほしい、というのが目の前で繰り広げられる気持ちよさったら!(笑)佐久間が「この杖がただの杖だと思うのか」と言うのはラストで3度目ですが、もうすっかり底の割れた強がりだったはずのその言葉がもう一度真実味もって立ち上がってくるところなど、好みの展開過ぎてどうしようかと思いました(笑)。

佐久間は徳市の家族を殺したあと、その憎しみを自分に向けることなく封印してしまった徳市を目の当たりにして「恐怖」というものを覚えるようになります。自分に向かってくる憎しみは斬ることができる。だけど向かってこない敵は倒せない。彼の敵は彼自身になり、そうして佐久間はその戦いに負ける一方なのです。

赦されるぐらいなら、殺されたほうがいい。佐久間と徳市の二人が最後に向かい合うシーンで私が感じたのは、そういう二人の情念、怨念ともいうようなものです。佐久間も徳市もこの時をずっと待っていた。一瞬の静寂と、それを掻き消すような桜飛沫の渦。ああ、この何も語らないラストも私の中では満点。

一部のじゅんさんの、いつもの楽しいテイストから一転、人斬りの顔を覗かせる後半が凄まじくて非常によいです。水野美紀ちゃんも悪くはなかったけども、個人的にこの人こそ立ち回りを見たかったなーという思いもあり。しんぺーさんは本当いやらしくて最高だしね。山本亨さん、足の怪我がお労しいのですが、それでもあの一瞬で空気を変える「剣豪」ぶりが格好良すぎてめろめろん。リエさんと二人の何気ないシーンがよかったなー。