「獏のゆりかご」

  • 紀伊国屋ホール F列19番
  • 作・演出 青木豪

*若干ねたばれ気味です。

SIS×青木豪という組み合わせのプロデュース公演。パンフで役者さんが口を揃えたように「『海賊』が面白かった」と言っていたのが印象的。確かに、確かにあの舞台はスゴかった。あれを見てなかったら今回遠征したかどうかも・・・いやしてたな・・・小松さん出てるもんな・・・(笑)

閉園が噂される寂れた動物園で働く人たちと、そこにやってくる奇妙な客。クレーマー、奇妙な行動ばかりとる若い男、そしてカメラマン。園内での人間模様と、奇妙な客たちとの会話から、それぞれの抱えた問題が浮かび上がってきます。

今、時折ネットのニュースでもあがっているのでご存じの方もいるでしょうが、動物の虐待問題でとある作家の発言が問題視されています。「獏のゆりかご」を青木さんが書き始めたときは、おそらくその問題が起きる前だったのではないでしょうか。去年の「海賊」の時といい、すごい偶然だなあと思ってしまったり。いや、青木さんの物事を見る目の確かさの表れなんでしょうけども。

現在の求婚者と、元夫の応酬の中で、「君はそういう風に言えるんですか、自分の子どもが動物を虐待していたとしても、親が悪い、育て方が悪いと言えるんですか」「この人には自分の子どもの父親になって欲しくない」という台詞があります。序盤で動物園側に対し「動物がかわいそうだ」と難癖ばかりつけるクレーマーは、自分の子供が虐待をしたという通報に打ちのめされます。自分の、一体、何が悪かったのか。虐待をしてしまった子供の母親同士がぽつぽつとお互いのことを語るところ。明確な答は出せないままながら、二人が一瞬の共感を感じ取るシーンは、青木さんならではだなあと思えた美しい場面でした。

今回の舞台、本当にSISやりすぎ!っていうほど、実力者を集めた舞台だったわけですけども(正直、見る前は全部のキャストは覚えてなくて、開演前にポスター見て改めて唖然とした)、個人的に段田さんはかーなり戸惑ってるんじゃないかな?という印象を受けました。段田さんほどの役者でも、惑うことはあるんだなあ!という意味では貴重な感じが(笑)。いや、もちろん一定レベルはクリアしてるからこそですけども。高橋さんと二人のシーンなんて、なんかもっと凄いことになりそうなんだけど(何を期待しているのですか)、そうならないのが青木作風なのかもしれないなあ。

役者さんのなかでずば抜けてたなあと思ったのは小松和重さんと池谷のぶえさんかな。小松さんはグリング客演経験者だからまあ当たり前かもしれないけども、台詞が自然なんだわ。池谷さんは前半の、ほんっっとに腹の立つクレーマーぶりも見事だし、上に挙げたシーンでの説得力も素晴らしい。マギーさん*1は最初のシーンの時、ちょっと声張りすぎじゃないのかな?と思ったけどだんだん馴染んできてたなあ。安田顕さん、初めてお見かけしましたけども、本人実はそれなりに真面目なのに至ってズレてる、という感じがよく出ててよかった。面白かったし。面白かったけど、なんか安田さんのシーンは異様にウケがよくて、イヤ、面白いけど、そんな笑い引きずるほどか?というところもちょっとあったかな。青木さんは笑い待ちをしない演出だし、その次の役者さんの台詞が聞こえない、というシーンがちょっとあったのは残念。

そうそう、その安田さんが小松さんにビデオ屋の看板の天使の羽の話するシーンあるじゃないですか。「なんかこう、天使って、頑張れーって気がするでしょ?」っていうとこ、そのシーンではワケわかんなくておかしいんだけど、最後の羽が降るのはさ、杉田さん演じる岡田への「頑張れ」なんだよなあ。ベタではあるけれども、ちょっとほろりとしたよ。

*1:正直「さん」つけると違和感(笑)