「朧の森に棲む鬼」新感線

ネタバレ有りです。

阿修羅、アテルイ、阿修羅再演、アオドクロときて、満を持しての今作。なんだかんだと染オリジナルってアテルイだけだったし、そのアテルイ以来の新作meets染さまで、しかも私の大好物の悪役をやるというじゃないですか。ピカレスクロマン、大大大好き。久しぶりにチケット獲りに着合いいれたよ、って申し込みの時願かけただけだけど!

いやーしかし、休憩入れて3時間半がまったく長くない力作だった。よく練り上げられてるなあ、という印象、これは実は新感線の作品ではあまりないことかも(笑)たいてい、あ、いまダルい、とか思っちゃう瞬間ってあるんだが、朧ではほとんどそれを感じることがなかった。これはまだ大阪公演1ヶ月残っているわけだけど、大幅修正とかやらなそうだねえ。それともそこでやってしまうのがいのうえさんなんだろうか。でも今回は具体的にいじる方向よりも、もっとキャスト間のドラマの堀下げを深めていく感じなのかもしれないとも思ったり。

リチャード三世をベースにしつつ、マクベスな要素もあちらこちらに散見された。名前のもじりは酒呑童子伝説からだね。ライにかけられた「呪」は「自分で自分を殺さない限り」だったわけだけども、その「呪」の破られ方が輻輳するのが面白かった。シュテンの言葉もそのひとつだろうし、うそをまことにし続けた舌がうそでまことを言い当ててしまうこともそうだし、かれのたったひとつの情けがかれを最後には追い詰めることもそうだろうし、そうして最後にはオボロたちの望んだとおり、その彼の血を朧の森に捧げることになってしまう。

しかし徹頭徹尾な悪役といいながら、ライは悪役というよりもその悪の哲学(美学でもいいが、どっちかというと哲学的な側面かなあと)に殉じた男という見方もあるよなあと思った。リチャードでいうところのアンをくどくシーン、つまりツナを落とそうとするシーンでの「正義なんてくだらないことを言うな、お前の中にあるのは俺への憎しみだけだ」とか、シュテンにむかって「お前もそうだ、ヤスマサとつるんでいたことは言わねえで、こっちが裏切ったことだけ告げ口する、人間なんてみんな同じだ」とか、ライの中には人間というのは絶対的に信用できないもので、信じたほうが馬鹿なんだと、誰も彼もが口ではお題目を並べていても、自分の欲望のために動いているんだと、だからこそおれのこの舌先三寸な言葉にだまされるんじゃないか、というような動かしがたい何かが居座っていたんだろうなあ。その彼の中にあるものに、まったく共感できないわけじゃない(でも逆に、それだけじゃないんだよ、という思いもあるんだけど)からこそ、この物語にこれだけひきこまれてしまったのかもしれないし、中島かずきさんもそれは意識してるんだろうなと思う。ツナが最後キンタに斬らせず自分で手を下したのも、ツナの中に在る黒い欲望、みたいなものの昂ぶりなんだろうなあと思うしね。

いのうえさんの演出はまったくもって見事の一語。飽きさせない、無駄な間を作らない展開の速さ、演舞場を活かしきった照明と動き、なんかもう安心して観ていられるよね、いのうえさんと新橋演舞場の組み合わせって。たぶん劇場との相性もいいんだと思うなあ。

キャストもほんと隅から隅まで言うことなしな感じだった。古田さんよかった・・・・ほんと良かった。マダレの役がいいのももちろんなんだけど、あの重厚感、締めるところを決してはずさない安心感、もうさあ、ツナのためにライに歯向かうとことか泣きそうになったっつの。あれだな、あんま喋らないからカミも少ないし、っていやそれは冗談ですけど、殺陣もさ、染さまは華麗!って感じだしサダヲちゃんは俊敏!って感じじゃないですか。早い!軽い!という感じの殺陣が続いた後で古田の「どーーーん!」って感じの重くてかつスピードのある殺陣がくるこのリズムがすっげ心地よかったんだよなあ。でもってその俊敏なサダヲちゃん、もう、あなたはどこまで女子たちのハートを射止めれば気が済むのか!みたいなねえ。かわいかったね・・・ハリコナちょっと思い出しちゃったね・・・でもすっげえなあ、と思ったのは2幕後半で出てくるところのほうなんだよね。やっぱ阿部サダヲすげえわ、と舌を巻く感じ。あの染さまとタイマン勝負で負けてない(下手な役者だと面白いほど負けるんですこれが)って只者じゃないっすよね。ライに最後斬りかかっていくところ、言葉にならない咆哮をあげる彼の気持ちがほんと胸に沁みたもの。届く、届かせる役者だなと、本当に。

秋山姐さんに聖子姐さん、カラーの違う対比する存在として描かれていて、またふたりとももうトレビアン!ってなんで突然フランス語なのかわかんないけどそんな感じだった。聖子さんの役が結構大きかったのは嬉しかったです。あの恋愛筋肉云々のところ、大好き(笑)今日思わず客席拍手喝采でしたもんね!秋山菜津子さんも相変わらずカッコイイ(のにエロい)役をやらせて右に出るものがいないな!と。真木ようこちゃんもがんばってたよなあ。他の二人に比べてしまうとやっぱりどうしても滑舌とか甘い部分もあるんだけど、深い声が出せるのは強みだし、これからもどんどん舞台出てほしいなあと思う。

もうさ、後半なんかこの衣装替えはファンサービスですよね?ってストーリー度外視して勘違いしたくなるぐらいお着替えが激しかった染さま。あーもうほんとに、どこがどうとか言う以前に萌え殺されるかと思いましたよマジで。最後の何、あれ何みたいな。髪ほどいて血まみれで水にぬれちゃうって何!どんな萌えコンボ!みたいな(ごめんねこんな見方しててごめんね)。やさぐれている時代よりも高貴な服装になっていくほうが断然お似合いという品の良さは隠せないわねえ、というところもありつつ、とにかく最後はもう気圧されて椅子と背中が縫い合わさってしまうんじゃないか!ってぐらいだった。オーラの圧力で。

カーテンコールのときって、いつも新感線って古田まで出てそこでキャスト全員並んで、で主演を迎えるでしょ?阿修羅だったら富田(天海)&染だし、吉原だったら松雪&堤だし。でもそれが朧は染さまひとりなんだよね。これだけのキャスト(どこかでピンでメインをはるような人たちがてんこもり)で最後ひとりどーんとセンターに来て、それがまったく違和感ない、その構図に負けてないってやっぱすごいことだと思う。

楽前で、芝居のテンションとしてはかなり良かったと思うんだけど、軽いミスも散見されという感じではあり、明日の楽ではその辺どうなのか気になるところですが、とはいえやはり完成度の高い、充実の一本だったと思います。新感線を観る楽しさ、を満喫してまいりました!!