「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」

ネタばれあります。主に演出方面。 

以前観たときに、この芝居はライブハウスで見てみたいなあ、と思っていたのだ。だから、今回の公演が新宿FACEを会場にしている、と知ったときに、こっちで見たい、という思いが強かったのですな。

12列目ぐらいまでは完全にフラット。そこにパイプ椅子で、後段は2列づつで段差だったかな。私はちょうど段差の前のほうの列だったので非常に視界がクリアで助かりました。

当たり前だけど、元の本があるのだから、同じ話だし同じ展開で進んでいくんだけど、しかしこうも違った風に見えるものか、と思って新鮮だった。

壮絶だったのは三上さんのヘドウィグだけど、山本くんのヘドウィグは何よりも哀しかった。その哀しさに胸が詰まりました。

なんというか、客も全開で迎え入れてない感じがすごくありましたね、劇場全体に。どんなもんか見てやろう的な。それがくしくもこの舞台の設定とシンクロしている風でもあった。それがだんだんだんだん空気が熱くなっていく感じもいい。THE ANGRY INCHとWIG IN A BOXの2曲でかなり空気を変えていたと思う。THE ANGRY INCHの入り方がすばらしい!「動かないで!」の声とフラッシュ、そして爆音。WIG IN A BOXはねえ、もう絶賛。だだ泣き。最初の一声からくらいました。

イツァークの役どころ、というか、それを演じる役者の役割を大幅に変えてきていて、それもこの舞台の印象を左右する大きな要因になっていると思う。いやーこのセンスは演出家ならではだよね。個人的には大正解だった。役柄に奥行きが出る感じがした。中村中ちゃん、初舞台でこのハードルは相当高いのではないかと思うけど、なかなかではないでしょうか?歌はもうもちろん折り紙つきなわけだし、それになにより声がいい!!

山本耕史くんもちろん歌もいいんだけど、しかしそれよりもすっげえな、と思ったのはあの台詞で持っていく力だ。ORIGIN OF LOVEのあとの語り口の吸引力!トミーとの愛を語るときの静けさ、幸せな光景なのに、なんともいえず哀しさが漂う。

私がこの芝居でもっともすごいと思い、演出家の手腕と演劇への信頼感に胸を打たれたのは、EXQUISITE CORPSEのあと、装飾を剥ぎ取ったヘドウィグを舞台上に残したままで次のWICKED LITTLE TOWNに入っていくところだ。彼は舞台上から一度も姿を消さず、そのままトミーの歌を歌う。イツァークのウィッグを取り、MIDNIGHT RADIOを歌い、君は完全だと叫ぶ。説明は一切ない。そして、一人残された舞台で、自分を照らすステージの明かりなのか、それとも、誰かを照らしている明かりなのかわからない光を遠く見つめ、その一瞬、残像を残して、何もかもが見えなくなる。

それを演じる耕史くんの力もすごいし、私たちにちゃんとボールを投げてくれるスズカツさんの演出も、私にはたいへん心地よかったです。

耕史くんも中ちゃんも完全にこなれた状態ではないので、硬い空気もありましたが、会場の空気感も含めて、これはどんどん濃くなっていきそうだなあという感じ。立ち見で当日券を出すそうなので、興味のある方はぜひ。