「コンフィダント・絆」

  • パルコ劇場 Z列18番
  • 作・演出 三谷幸喜

ネタバレありです。

19世紀のパリで、自分の才能への自信と、同じぐらいの不安を抱えながら人生のある時期を共に過ごした4人の画家と、ひとりの女性のお話。

良かったです。まずそれだけ先に言っておきます。よかった。大阪でチケットがまだあるという話も小耳に挟みましたし、行ける機会のある人は是非行ってみてください。


話の構造が、すごく「彦馬」を彷彿とさせました。それは終盤、シュフネッケルとゴッホたち3人の違いが明らかになるところに一番出ているかもしれない。歴史に名を残し、偉大な画家として名前を残す3人と、たとえば「彦馬」で言うなら「右からゴッホゴーギャン、ひとり飛ばしてスーラ」の「ひとり飛ば」されるシュフネッケルと。3人の画家の、才能があるがゆえの傲慢さ、だからこそのきらめき、そしてその中にいれば、自分もきらめいた存在でいられると思っていたひとりの平凡な男の哀しさ。

だけど、彼こそがコンフィダントなんだよ、と伝える三谷さんのその目線の優しさが私は本当に大好きです。

そういえば東京サンシャインボーイズ彦馬がゆくで、「ひとり飛ば」され、龍馬に「お前と俺たちはちがう」と言われてしまう陽一郎兄ちゃんをやったのも相島さんなのだった。

でも、彦馬と違うのは、その勝者の中の光と影を存分に描いていることで、それがこの物語を際だたせていると思う。ゴッホの完璧な才能の前にどうしようもない敗北の気分を味わうスーラとゴーギャン、二人のシーンは本当に素晴らしかった。そしてその敗北の前に足掻いてしまうスーラと、敗北を受け入れることで自分を完全な敗者ではないと思いたいゴーギャンと。

4人+ルイーズの5つの場面で構成され、最後に必ず彼らに語りかける歌で終わるのもよかったです。

キャストが皆、本気で素晴らしい。中井貴一さんは以前、ダンダンブエノで舞台を見たときうまさに舌を巻いた記憶があったので非常に楽しみにしていましたが、期待に違わずやってくれました、という感じ。本当にそれぞれ自分のキャラクターを際だたせることに見事に成功していたなあと。生瀬さんのゴッホの無邪気さと残酷さ、寺脇さんのゴーギャンの大人の魅力と弱さ、中井さんのスーラの冷静さと寂しさ、シュフネッケルの相島さんの優しさと鈍さ。そして堀内さんのルイーズのいたわり。最後、4人の名前をピアノの伴奏なしに歌い繰り返す彼女のなんと見事だったことか。

正直なところ、舞台のそこかしこで相当な勢いで泣いてしまい、終わってからこの感想を書いている今でも、あの歌が頭を離れません。

面白おかしく、笑える物語をいくつも生み出してきた三谷幸喜さんですが、だからこそ描ける人間の哀しさに溢れた舞台でした。もちろん、お得意の笑いもふんだんに盛り込まれているのですけどね。休憩15分を挟んで2時間40分の舞台。あっという間の夢のようなひとときでした。