「夏祭浪花鑑」平成中村座

串田和美さんが館長(兼芸術監督)をつとめるまつもと市民芸術館での「夏祭浪花鑑」初日、行ってまいりました。初日は昼間に松本市内でのお練り+松本城本丸公園内でのご挨拶、というものがあり、あの30度を超す炎天下の中、本丸公園に作られた会場に1時間半前から陣取ってがっつり参加してきました。いやあもう・・・煮えるかと思いました。しかしかなり前方で陣取っておりましたので、役者さんたちはひっじょーによく見えました!壇上に上がられたのは串田さん、勘三郎さん、扇雀さん、橋之介さん、弥十郎さん、笹野さん、亀蔵さん、そして勘太郎くんに七之助くん。笹野さんの非常にお茶目な挨拶も楽しかったんですが、すいません、正直、この挨拶の間ほぼ、勘太郎くんしか見ていません(笑)七が最初に出てきたとき「うわー焼けてる!どうした!」とびっくりしていたんですが、勘ちゃんも良く見るとうっすら日焼けしていて、それがまあ・・・なんとも言えず精悍でなんつーかもうカッコイイったらなかったっていう。いやもうこれ語りだしたら止まりませんのでここでは自粛します(笑)。

挨拶でも役者の皆さんが述べられていましたけど、本当に松本の街は熱い!もう、街中いたるところで歓迎ムードが噴出していて、それはJRの駅を降りた瞬間からその「街中ハイテンション」状態は始まっていて、お練りに集まった人たちも相当なもんだったと思います。最初に挨拶に立たれた串田さんが「演劇がこんなに祝福されるところに立ち会えて、夢のようです」と仰ってたのがとても印象的でした。

(これはお練りの時を待つ御神輿)

さて、夜はいよいよお待ちかねの本番!まつもと芸術劇場、初めて行きましたがさい芸をよりゴージャスにした感じとでもいいましょうか。ロビーが広くて美しく、そのロビーには「夏祭」ならではの夜店がずらっとならんで壮観でした。

演出は基本的にコクーン仕様。ですが、コクーンよりは幾分「たっぷりと」感が戻ってきたかな?という印象。長町裏での泥場のやりとりとかにそれがよく出てたかなー。平場の、間近な席で見させていただいたってこともあるんですけども、勘三郎さんの凄さに改めて感嘆、という感じ。ベルリン、シビウ、コクーンと回ってきているとはいえ、劇場が変わっての初日、初日ならではの緊張感がちゃんとあって、場面場面で揺らぎそうになる軸をほんのひとつの呼吸や目線でその都度引き戻しているなあ、と思う場面が何度かあった。

それにしても、本当によくできた芝居だな、と観るたびに思う。この芝居に限らないが、歌舞伎には筋書きとか起承転結というルーティンな物語の流れよりも、その一瞬一瞬の舞台での感情の迸り、情と情の交錯を、まるで拡大鏡で眺めるように大きく大きく見せる、というようなところがあって、それがたとえばこの芝居のお辰の侠いであり、義平次に「男の生き面を」と詰め寄る団七であり、玉島へ落ちることを説く徳兵衛であるわけですが、それらが物語のうねりを損なうことなくクライマックスへのフックとしてこれ以上ないぐらいにぴったりとはまっているからこそ、最後までテンションを落とすことなく、一気呵成にあのラストシーンへ繋げることができているんですよねえ。

松本公演ではお辰を七之助くんがやっていて、勘太郎くんは磯之丞、琴浦芝のぶちゃんが演じています。しかし、勘太郎くんの磯之丞は、あれだけの場面であそこまで役を押し出してくるその役者根性、天晴れじゃ!(笑)人によって好きずきはあると思いますが、今までとは一味もふた味も違った磯之丞で、おもしろかったです。七之助くんのお辰も健闘!前半の抑えた芝居の部分で物足りなさを感じたところはあるにせよ、後半は入魂!といった芝居ぶりでよかったです。

大阪の扇町公園で行われた「夏祭」を観てから、私はこの芝居に魅入られてしまって、いまだにそれは解ける気配がないわけですが、この芝居が私の心をひきつけてやまない大きな理由のひとつは、お練りの挨拶で串田さんの仰った「演劇がこんなにも祝福されること」への喜びがあるんだろうと思います。この芝居は、誰も彼もが幸せになる姿を描いた物語ではありませんが、その果てることのないパワー、疾走感、そしてあの高揚は、祝祭空間としての演劇にこれほどふさわしいものもない、と思えるもので、だからこそ多くのひとたちが、その魅力にとりつかれてしまうのではないでしょうか。それを実現し続ける勘三郎さんをはじめとする役者の方々と串田さんに、あらためて感謝を。