「て」ハイバイ

評判を聞きつけて直前にチケット購入。池袋芸術劇場のまわりはなにやら祭りですごい人だかりだった。
ひとつの出来事に対して、光を当てていく側面を次々に変えていく構成がすばらしい。作品は途中の折り返し地点から、まったく違う側面を見せながら転がり始める。何気なく素通りしていたさっきのシーンが、こんな意味を持っていたのかということを目の当たりにしていくのは、まさに劇的興奮そのものでした。
加えて、あの家族同士のひとつひとつのやり取りの、恐ろしいまでのリアリティ。一番最初の衝突になる、祖母の前での兄と弟のやりとり、正直そのへんのホラーよりホラーです。こわすぎるよ。これは演出の緻密さを感じました。役者に逃げ場を与えていない感じ。
劇中で最大の衝突になる弟と父親の会話、最後に父親の言い放った「愛情だよ」はぞっとしたなあ。なんの意味があってこの人のことゴルフクラブで殴ったり兄ちゃんを木刀でボコボコにしたりしたんだよ、という叫びへの答えがそれ。母親や4人の兄弟それぞれには、それぞれの事情を、心情を語らせたり悟らせたりする場面があるのですが、父親にその場面を与えていないのはこれが作者の自伝的要素を含んだ作品だからだろうかなんて考えたり。
その父親に対し、母親が、終わって別れてやってきたことを切り捨てて白紙にして、そんなことは許さないと言い放ち、これから彼が陥るであろう孤独というものを滔々とかたり、その最低な孤独の末に死ね!と叫ぶシーンは壮絶でした。
役者さんも、猫ホテの菅原さん以外はほぼ初見だったのではないかと思います。さっきも書いたんですけど、基本的にひとつのシークエンスを表と裏から見せる、というやり方なので、場面によっては1回目は唐突に始まったりするシーンもあるわけです。その「裏」を見せるシーンで、ようやく役の心情がつながるわけですけど、感情というのはやっぱりエスカレーターなんだなあと思いますね。同じシーンの同じ動きでも、前のやり取りによる感情の昂ぶりがあるかないかでまったく違うよなあと当たり前のことを思ったりしました。