モテキ、いまさら第6話を語る

今日で「モテキ」が終わってしまいます。連続ドラマを苦手とするわたくしですが今クールはこのモテキうぬぼれ刑事と、2作品も完走することができました。作品の波長が自分に合ったことはもちろん、基本的に1話1エピソードなスタイルが見やすかった要因のひとつなんだろうな。いやもちろん、一番の要因はいいドラマだったからです。

中でもこのモテキの6話は自分の中で相当鮮烈なものとして残っています。監督の大根仁さんがtwitterで「「モテキ」ってなんの話か?っていったら、急に来たモテ期が急に終わる話」「だから序盤〜中盤がワクワクするのは当たり前」そして終盤は現実に引き戻されていくんだ、とツイートしてらっしゃって、なるほど確かに、だとすると、全12話の折り返し地点である6話にあれだけのカタルシスが詰め込まれていたのもむべなるかな、と思ったのでした。

その前の5話で、林田尚子に馬乗りになられながら「女の子たちはお前の心に土足であがりこんできたんだろ、だったらお前も土足であがりこんでやれ」というハッパをかけられるシーンもとてもよかったのですが、この6話ではまさにその「土足であがりこもうとする」主人公の藤本幸世と、いつかちゃんを描いているわけです。

いつかちゃんは自分が好きだった先輩の結婚式でカメラマンを頼まれます。その二次会で、オハコとはやし立てられていつかちゃんの思い人がカラオケで歌うのは、守りたい愛したい悲しませない一生おまえのそばにいる、と延々訴え続けるような歌だった。サブカル好きを自称するいつかちゃんは思う、あの人なんでこんなクソみたいな曲が好きなんだろ。そしてさらに思う、そんな歌を好きになれない私ってなんなんだろ。

物語の終盤、かつて自分が「処女をドブに捨てた」その相手からいつかちゃんは逃げ出す。最初の相手、そして最低のセックス、そして最低の夜、最低の自分から彼女は逃げ出さないではいられない。かつて自分も同じように「童貞をドブに捨てた」幸世はその背中を追いかける。そして言う、俺たちの間にあるものはなんだ、音楽だ、それだけはあいつらに負けない、だからクソみたいな歌を歌っているあいつらにぶつけてやれ、俺たちの好きな音楽を。

そしてカラオケボックスの中、自分の思い人や、処女をドブに捨てた相手の前で、いつかちゃんは神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」を歌い出すのだ。

私は個人的に神聖かまってちゃんに対する思い入れは全くないと言っていい。そして少しの映像や、音や、それよりもたくさんの音楽ニュースで届けられるちょっと枠をはみ出したかのようなあれこれを目にしても、それを理解できると思わない。ただ、安易に「わかる」なんて言っちゃいけない気持ちにさせられることは確かだ。この子たちの前では私はものわかりの悪い大人でいたい。「さいきんのおんがくはよくわからないわ」とステレオタイプな言葉をいう大人でいたい。それでも最終的には彼らは、そんな旧時代の大人たちを踏みつけていくのかもしれない。その時には喜んで踏みつけられよう。そうやって世界は更新される。

やたら綺麗なピアノの旋律と、譜割りもピッチもめちゃくちゃのように聞こえるアンバランスさ、いつかちゃんは震える声で歌い始めるが、そのうちその持てる鬱屈をすべてはき出すように激しく言葉を叩きつける。もっと、もっと、もっと、もっと!

このシーンを見ているとき、私の頭を過ぎったのはドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」の中で、ニールがパンクミュージックに触れる瞬間を描いたシーンだ。パンクなんてもの何が良いんだかわからない、と思っていたニールは、調査のために出向いたクラブでパンクミュージックの中の怒りを知る。壊せ、ぶっつぶせ、この世界はクソだ、政治も、社会も、そしてこの俺も。

好きな先輩がカラオケで熱唱する曲を「クソみたいな曲」という彼女、だが本当はわかっている、何よりもクソなのは自分自身だということを。この世界はクソだ、大好きな先輩も、先輩が好きなクソみたいな歌も、それを好きになれない自分も、そして何より、自分のちょっとした偏向にしか自分のアイデンティティをかけられず、こんなところでクソみたいな自分のクソみたいな鬱屈を、ロックンロールという衝動のなかでしかぶつけることができないことも。

だがそれでも、クソみたいな世界にも朝がくる。明日もまた今日も同じ一日、だけどときおり、本当にまれに、何かが更新されたような朝が訪れることがある。幸世は朝焼けのなか、いつも自分が下を向いてあるく坂道を、自転車で切り裂くように駆け下りていく。世界は相変わらずクソみたいに美しい。何かが更新された予感がする。そのクソみたいな世界に、神聖かまってちゃんのクソみたいに美しい旋律がなだれこむ。

気がついたらわーっと泣いていた。

ここまで書いて、モテキの最終回を見終わりました。突然やってきたモテキが、突然去っていく話。なるほど。ipodのシャッフルの神様のくだり、とてもよかったな。

好きなシーンもいくつか思い出します。公園で踊っちゃう幸世とか、オム先生のマンションから逃げ去る幸世とか、追い打ちをかけるいつかちゃんのメールとか、そして「普通の人だからこそ美人でないと埋められないものがある」というセリフとか。童貞をドブに捨てた朝のやるせなさとか今の幸世を見る少年時代の幸世とか。毎回のモテ曲がどんな風に使われるかを見るのも楽しみでした。それにしてもどんなシーンであっても、疾走する森山未來は完璧にうつくしかったなと思います。

はー本当に楽しかった。ドラマを最後まで見続ける、という達成感もあるでしょうが、今はただ清々しいきもち(笑)途中で原作をまとめて読んでしまおうかと相当悩んだんだけど、ここはもうドラマを見終えるまで我慢しようと決めてました。なので本家「モテキ」、近日中に読破したいなと思います。ドラマのスタッフ、キャストの皆々様、お疲れさまでした!