2010年のベスト

総観劇本数38本(リピート含まず)。去年と同数かあ〜、でも来年はもうちょっと増える!増やしたい!と思ってます!だって三谷祭りだし!第三舞台復活だし!
去年と同様、5本をピックアップ。観劇順です。

  • エネミイ

今年のベスト1。遠征日直前に鴻上さんがtwitterで感想を述べられていて、鴻上さんにそうまで言われちゃあ気になってしまうのではないかー!とその場でチケットをぽちっとしたのでした。ほんっとに見て良かった。すばらしい作品でした。これについてはあとで詳述。

芝居としての完成度とかはひとまず置いて(置くな)、とにかく勝村さんのメフィストフェレスがドンズバというかツボ中のツボというか、私の理想が服着て(時々着替えて)歩いてるー!とひたすら興奮。私の愛してやまない邪悪笑いをここぞとばかりに炸裂させまくってくださって、ああもうしばらくこれでおかずなしの生活を送れますお代官様、と平伏しかねない勢いでした。なんだあの男前。次の舞台はいつですかー!

勘太郎くんがお岩を初役でつとめた舞台。開演直後から上々の評判で、そうなってしまうと余計にハードルがあがってしまい右往左往するのがヲタ心というものです。しかし、その期待値をはるかに超える芝居をみせてくれたこと、ほんとになんというか、ヲタ冥利につきるなと幸せをかみしめた舞台でした

  • じゃじゃ馬馴らし

ヲタとしての幸せという意味ではこちらもそうです。もう、ここまできたらないだろうと思ってた(ご本人も思ってらしたご様子)ことが起こって、しかもそれが心から楽しめるものであったことがほんとに嬉しかった。筧さんと亀治郎さんのバトルはまったくもって見物でした。亀治郎さんの最後の長台詞のかっこよさたるや!

  • 母を逃がす

初演は拝見しておらず、今回が初見でした。久しぶりに大人計画のメンバーがフルで揃う、ということでとても楽しみにしていたわけですが、見終わったあと居ても立ってもいられない、というぐらい興奮しました。すごいものを見た!という感じ。濃密すぎる劇世界が、淡々と飄々と日常の残酷さと同じ顔で流れていく。圧倒的な2時間15分でした。


さて、ベスト1に挙げた「エネミイ」は、ここに感想を書いたとき物語の核心となるシーンのことは書きませんでした。公演期間中でもあり、見に行かれる方がいるのなら、その核心部分は書かない方がいいだろうと思ったからです。

観劇後に書いた感想はこちら

物語のクライマックス、かつて学生運動の同志として戦い、今もまだその「革命の季節」を追いかけている訪問者二人と、その後袂を分かち大企業に就職した主人公の父が、いよいよ激しく言葉をぶつけ合う。おまえは逃げているだけだ、いやあなたたちこそいつまで夢をみているんだ、何を言うんだ、おまえの息子は、と訪問者は主人公を指して言う。いい年をして、いまだにコンビニのアルバイトなんかやっているんだぞ!それが幸福なのか、おまえの目指した幸福はそれか!

その騒動は、台所に現れた招かれざる客、つまりゴキブリの出現によって中断する。家の中を右へ左へ、大騒ぎしながら駆け回る家族たち。居間に現れたゴキブリをたたきつぶそうと、父親はとっさに主人公がいつも持っている黄色いファイルを手にとって、それを叩きつぶす。

それまで、ほとんど感情を表さず、ただ人の言葉に曖昧な相槌を繰り返していた主人公、玲二は突然立ち上がり、父親がゴキブリを叩きつぶした黄色いファイルをその手からひったくる。彼は台所に行って、そのファイルをきれいに拭き取ろうとするがなかなか取れない。玄関のチャイムが鳴り、玲二が応対する。訪問者は彼の友人で、玲二は友人に今仕事中か、と尋ねる。そのまま構わないからリビングまで来てくれ。

現れた友人は警察官の制服を着ている。警察、というものに敏感になっている訪問者二人は一瞬慌てふためくが、玲二は平然という。警察はあなた方のやっていることに興味なんてありませんよ。

彼は警察官です。でもときどきこうやって仕事をさぼる。彼とぼくはオンラインゲームで手に入れたアイテムをネットで高値でやりとりしてるんです。彼はどうしようもないやつだけど、でも手帳には奥さんと子供の写真がいつも入ってる。いいやつなんです。

僕はコンビニで働いています。たくさんの人が働いていて、みんなそれぞれ事情がある。○○さんのうちは夫婦で働いている。たくさん稼ぎたいけれど、でも小さい子供がいるので夜勤はできるだけやりたくない。

玲二は淡々と、表情ひとつ変えずに、そのコンビニで働いているひとたちがそれぞれ抱える事情をかたっていく。シングルマザーのもの、借金を抱えているもの、昼間の勤務ができないもの、なかなか夜勤に入れないもの。それはまさに身近な、観客ひとりひとりに近接した事情というものばかりだ。玲二は続ける。

僕はいつも最後でいいっていうんです。僕のシフトを決めるのは最後でいい。ぼくは実家暮らしだし、こうしてお金に困っているわけでもない。来月の第2週見てください。ここのところずっとこの週のシフトをどうしようか考えてる。すごく難しいんです。
ぼくはあなた方の言うようにダメなやつかもしれない。でも先輩は、ぼくにこの仕事を託してくれた。

「僕は、見事なシフトを書いてそれに応えたい。」


仕事をするということ、何かと戦うということ、それは遠い世界の話ではなく、つまるところ「見事なシフトを書いて、それに応える」ことなんじゃないかとおもうのだ。

2010年の、わたしのベストシーンでした。