ファンタジーをあげよう

NHK教育テレビで放送されている佐野元春さんの「ソングライターズ」は大好きな番組で、第1シーズンの頃から楽しみに見ているんですが、現在放送中の第3シーズン最後のゲスト、七尾旅人さんの第1回目の放送があまりにも刺激的ですばらしく、あろうことか3回ぐらい連続で見てしまった。繰り返し見てしまった原因は自分にははっきりわかっていて、それはたった30分の番組のなかで、いいインタビューならではの化学反応が起こる瞬間がおもしろいほどはっきりととらえられているからだとおもう。私が3回見て、3回ともふるえてしまったのはこの場面。

佐野「現代のポップカルチャーは、ustreamYoutubeだと言えるんじゃないか」
七尾「そうです、まさに」
佐野「そこから生まれてくる新しいart、言い換えれば新しいファンタジーを僕たちは生み出せるかもしれない」
七尾「まったくそう思いますし、20世紀のポップカルチャーは死んでないというか、20世紀のあの綺羅星のごとき楽曲たちは完全に生き残ってて今も最高ですよね。しかもネット上に残ったことでますます消えにくくなった」
佐野「ビートルズストーンズ、ディラン、そしてソウルミュージック
七尾「そうです。佐野元春もそうです。その系譜は完全に生き残っていて、何がダメになったのかといえばそれはポップシステムだと思いますね。ポップを供給するシステムが壊れたんだとおもう。ポップカルチャーは俄然生き残っている。(中略)だから今一時的にスターが生み出しにくくなっているかもしれないけれど、ポップカルチャーは21世紀ポップカルチャーになって今胎動期というか、芽吹く瞬間になってるんじゃないか。60年代のポピュラーミュージックは一握りの天才のためのものだった。今のポピュラーミュージックはあらゆる人間に向かって開かれつつある。本当の意味で音楽がポピュラー、普遍を帯びるようになる」
佐野「そうした有様を通してその先に、僕らクリエイターは何を夢見るんだろう」
七尾「何を夢見るんだろう…僕らのいろんな夢が現れては消えていくとおもうんですけど」
佐野「僕はファンタジーを見たい」

まるっきり決められた台本があってもこうも美しくはならない、というほど、なんというかそれは劇的で、いやお二人の立場を考えれば「音楽的」な瞬間だったとおもう。佐野さんの口から「ファンタジー」という言葉が出たときのなんともいえない「わかり合っている感じ」、たまらなかった。

そしてもうひとつ、個人的に首を縦に振りすぎてしまったのがこの七尾さんの言葉。

「必ず才能があるところには、いやらしい言い方ですけどお金みたいなものも発生してくるとおもう。ほんとに音楽が好きでほんとに音楽の才能のある子が、ほんとに食いっぱぐれてしまうのかというと、僕はきっと手立てが出てくると思っている」

そう、そう、そう。私もほんとうにそう思ってます。無許可での配信や海賊版や、そういったものに問題がないとは言わない。でもそれでほんとうに音楽というジャンルは弱くなってしまうの?だったら演劇はどうなるの?CDが売れないどころか、そもそも「売る媒体」がない彼らはどうなの?稽古して芝居を打ってそのチケット代金だって制作費に消えて皆バイトしながら芝居を続ける。今テレビで華やかな活躍をしている役者の多くがそうした時代を過ごしていて、実際今でも多数の演劇人がそういう生活を続けている。でも演劇というジャンルは死んでない。弱いかもしれないけれど、けっして死なずしぶとく生き残っている。なのになぜ、音楽だけが「CDが売れない」ということで世界が終わるようなことになるの?それはもう、私がずっと心に思ってることだった。

この配信全盛の時代にあって、演劇というのは決して配信され得ないものだと思っているし、だからこその強みもあるのだろうけど、七尾さんの、ネットという武器を手に入れたことで音楽は俄然強くなる、ますます消えずに生き残っていくという力強い言葉には「音楽の強み」を実感させられてしまった。うれしいくやしさ。

いやーほんとうに濃密な30分間でたまらなかった。こうした刺激的な会話と同時に、この番組名物の「定型質問」*1のなかの「嫌いな言葉」について、七尾さんが「毛虫って言おうと思ったけど、さっきみんなに笑われたので、「不可能」とか…かっこいいほうに」と照れながらいうと、佐野さんがすばらしい笑顔のまま「毛虫でもいいよ」と言ってあげる空気感もたまらないものがありました。本日7月9日23時から後編放送。今から正座して待つ勢いです。

*1:アクターズ・スタジオ・インタビューに倣って(と思われる)毎回どのゲストにも同じ質問をするのです