「髑髏城の七人」新感線

自他共に認める「髑髏城大好きっ子」ですから、楽しみ半分、不安半分。どんな舞台になってるのかなあとおそるおそる足を運んだ感じです。
以下ネタバレ含む。

主演三人がすごくフィーチャーされていたので、「髑髏城の三人」みたいなことになってたらいやだなあというのが一番の不安要素だったのですが、ちゃんと私の好きな「髑髏城の七人」でした。脚本の変更はあるもののやっぱり物語としての骨格がよくできてるというのを一番に感じましたし、オーソドックスといえばオーソドックスなエピソードの積み重ねではあるんですけど、終盤にかけてもりあがっていく構成はやっぱりすごい。

主演の三人、私の勝手な事前予想だと森山未來の一人勝ちになるんではないかなと思ってたんですけど、そうでもなかったですね。良くも悪くも三人拮抗してます、拮抗というか、いい感じに迷走してます(笑)早乙女太一くんは殺陣はもちろん言うことない、ただ台詞のトーンがほぼ2種類に集約されてるっていうのと台詞回しで聞き取れないところが多々あったのが残念。小栗旬くんの捨之介、まあもちろん先達があの古田新太ですからキビしいに決まってるんですが、あまりにもキャラが違うのでそこはあまり気にならない。色男ではなく優男な感じの捨で、一匹狼というよりはすぐに仲間を作り上げるタイプという感じ。ただ終盤になればなるほど殺陣での厳しさが物語の推進力にストップをかけるところがある。未來くんは殺陣はもちろん、動きの一つ一つが完璧で言うことないし、長く任された場であればあるほど吸引力を増していくのがさすが底力のある役者という感じなんですが、演技プランなのか演出指示なのか、中二病というか駄々っ子というか、深謀遠慮を張り巡らすというよりは衝動万歳な天魔王に見えてしまうのと、そういう風に見えるのにも関わらず、役の立ち位置がどっちかというとアオの染さまに寄っているのでそこはどうしても差を感じてしまうっていう。

まだ彼ら自身にも見えてない部分があるのかなーと思いつつも、ただ三人とも華も実もある役者であることは間違いないですから、舞台のうえで一触即発な空気になったときの「やんちゃ」な感じ、それはこの世代が演じるからこそだよなあと思いました。

わりときっちりセットを造りこんでいて、それがいい風に出たところもあればそうでもないところもあったかなあ。あと個人的に、もっとも残念だったのはあのテーマ音楽が差し替えられていることです。今回の芝居、歌も踊りもないんですが、BGMも基本的にクラシック系、重厚な感じで押してるんですよね。かつての「新感線!」なBGMが使用されていたのは百人斬りのシーンぐらいではないと思います。やーあのテーマ音楽は残して欲しかった。ラストの感動が倍違うとおもう。いやマジで。

今回の殊勲賞というか、このハートの強さから学べ若人どもよ!と感服したのが聖子さんの贋鉄齋。出のシーンは歴代確実に爆笑をさらってきた名シーンですが(97年の「お前は脳に虫を飼っているな!?」は個人的に今でもよく使う)(どうでもいい)、絵に描いたように爆笑しました。爆笑しました。すばらしい。あれだけのシーンで、あっという間に劇場の空気を「新感線」に変えていた。そして三五!もう!河野さん!最高!いやもちろん過去この役をものしてきたというのはあるにしてもだ!カーテンコールの挨拶がピンでなかったのがちょう不服だよ!粟根さん、かつていろんな人が喋っていた説明台詞を一手に引き受けてましたなあ。裏で糸を引くラスボス系かと思ったけど本当に忠義の人だったのが意外。

この作品で目を引くのは捨と天魔王の関係であり、蘭兵衛もふくめた三人の思惑と野心と妄執、であるのは間違いないと思うんですけど、物語の骨格を支えているのは彼らではなく、彼らが「雑魚」だと思っている連中なわけですよね。だからこそ兵庫という役がものすごく重要なんだろうと思うんですけど、やーこればっかりは、勝地くんが悪い訳ではなく、むしろ若手の中では迷走せずによくやっていると思うんですが、いかんせん私の兵庫に対する理想が高すぎるってことなんだと思います。勝地くん、もうあと一歩!という感じなんだよなあ。小池栄子さんの極楽太夫は今までで一番「女」で「姉御」でしたね。美しいし、台詞もよく聞こえる。みんなに慕われるのが自然に頷ける太夫でした。

無界の里が襲われる前の絵に描いたような幸福な光景、完全なる死亡フラグとセオリー通りにやってくる髑髏党、そこからの5人の奮起とあとをつけて駆け出すもうひとりの男、この構図はもうどっからどういうパターンで来られても落涙せずにはいられないんじゃないかっていうほどに好きすぎます。

だからこそ、そのあとの髑髏城での戦いはもっともっと血気をあげてやってもらいたい。百人斬りはもちろんだし、最後の対決においてももっと血を沸かせてくれないと、と思います。がんばれ。1ヶ月後の東京公演を楽しみにしておきます。