- 作者: 大崎善生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/06
- メディア: 文庫
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面白かったです、これを言うと作者の本懐ではないでしょうが、大崎さんはやっぱり小説よりも圧倒的にノンフィクションにおいてその力を発揮するひとだと思う。
きっかけは新聞の三面記事。「ウィーンで日本人男女心中 33歳指揮者と19歳女子大生」ここに書かれたわずか10行にも満たない記事から、大崎さんはこの事件を追い始めます。なぜ、19歳の少女が。なぜ、遠い異国の地で。なぜ、自ら死を選んだのか。
どこにも手がかりのないつるつるの壁を登っているかのようだった大崎さんが、ある1つの事実を境にその壁を一気に突き崩していくさまはまさにノンフィクションならではの醍醐味でした。
どんな人間にもドラマがある。そのことを証明するかのように、三面記事からはけっして立ち上がってこない物語が、この19歳の少女の死から見えてきます。
思うに、大崎さんはたいへんなロマンチストなのではないだろうか。作中でも、この少女の選択に深く身を寄せすぎて書いているなと思うところもあったのですが、しかしノンフィクションというのは、沢木耕太郎さんの言葉を借りれば「現実という旗門」を通過して書かなくてはならないわけで、それが大崎さんのロマンティシズムにほどよくブレーキをかけているという側面があるような気がしました。
しかし、わたしも歳をとったというのか、今までならこの19歳の少女が遺書に書き込んだ、痛烈すぎる言葉のほうに気持ちを持って行かれたのかもしれないが、私がこの作品の中でもっとも胸を打たれたのは、彼女の母親が、たどたどしいひらがなで(彼女の母親はルーマニア国籍で、日本語を話すことはできるが書くことは不得手)必死に思いを綴った短い文章のほうでした。もう、やっぱり、親の立場のほうで物事を見てしまうよ。自分に子どもがいるわけではなくてもさ。
猛烈に集中して、一気に読み切りました。重い作品ですが(何しろ結末は最初から提示されている)、一読の価値のある作品だと思います。
大崎さんのノンフィクション作品ということで、これもおすすめしておきますね。
- 作者: 大崎善生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/05/15
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