二月花形歌舞伎 昼の部

  • 松竹座 1階7列16番
  • 慶安の狼

丸橋忠弥の話…という予備知識だけあって、そういえば10年前ぐらいに橋之助さんの丸橋忠弥見たなあ、最後の立ち回りすごかったなあ、などと思い返していたのですが、今回の物語は慶安太平記ではなくて新国劇に書き下ろされたホンだとのこと。

慶安の変と、それに絡んでくる当時の武士(浪人)の思惑と葛藤…という筋立てではあるんですけど、正直物語としてはなんというか、うーむ、という感じもあったかなあ。どうしても暗転が多くなってしまうのも難しいところかなと。

しかし、野中小弥太という主人公と対比させるキャラクターを配していて、幼馴染みである彼に忠弥を斬らせるぐらいのことするのかしらと思ったら、あっさり小弥太も使い捨てされた挙げ句忠弥と二人で多勢に無勢の大立ち回り、あろうことか最後は忠弥が腰紐で小弥太と自分を結びつけて瀕死の小弥太を抱きかかえるという展開に(更に言えばそして二人でおでこコツンという展開に)北島マヤぐらい白目になったことをご報告させていただきます…すごい、火のないところに煙どころかいくらでも狼煙をあげられそうな絵面だった…(笑)

無頼の槍術の達人、丸橋忠弥を獅童さんが演じてらっしゃって、その行き場のないやるせないさみたいな雰囲気がよく出ててよかったです。愛之助さんの小弥太がこれまたなんつーかお人好しっつーか、アホな子ほどかわいいを地で行くキャラで…かわいかったです(笑)

幕が開いてから漏れ聞こえてくる評判の良さについつい戻りの1等席を押さえてしまったという…いやーしかしこれは評判をとるのもわかる!大阪という土地柄と大阪人の好みをにくいほどふまえまくった作品でした!

物語の大筋は歌舞伎の本道というか、かなり類型的なお話なんですよね。お家の重宝、「今は」没落した良家の子女、持っていたお守り袋の「実は」的展開。でありながら、舞台上では「なんでもあり」のやりたい放題。河の中で河童と財布を取り合うところの人力マトリックス合戦を筆頭に、まさに新感線の「小六魂」もかくやな遊び心がここぞとばかりに噴出していて、この真っ向勝負の全力馬鹿(褒めてます!)に胸が熱くなってしまったじゃないの思わず…!

地元ならではの吉本ギャグもふんだんでしたが、それ以上にウケていたのが端々に挟み込んでくる歌舞伎の名作の数々!籠釣瓶やら忠臣蔵、封印切、切られ与三などなど。私が知らないだけでもっと細かく盛り込んでらっしゃると思いますが、そういったアクセントもすごく効いているなーと思いましたです。

そして何より、演じている役者さんが皆全力で楽しんでいらっしゃるのがわかる!そして座組の隅々までが舞台を楽しんでいる(そしてその力がある)ってことの大事さを改めて思い知ったというか。なんかね、野田版研辰の初演を見たときの興奮にちょっと相通じるものがあるような気がしました。

鳰照太夫翫雀さんすばらしかったなー!もーう何とも言えずかわゆらしい、おちゃめ、かと思えば縁切りの場面では女心にぐっときまくってしまったよ。そして獅童さん、ああ、獅童さん。思わず心から「き、きもい!」と叫びたくなるような圧倒的なキモキャラを全力にもほどがある全力ぶりで演じてらっしゃいましたね…!もう、笑いしぬかと思ったYO!最後に出てくる愛之助さんのすっきり男前ぶりとまた対比が素晴らしくてもう。亀鶴さんのところどろこで噴出するはっちゃけぶりにも笑わせていただきました、つーかほんとみんなみんなよかった!

染五郎さん、まさに硬軟自在といった巧みさで舞台のシンをつとめてらっしゃるんですが、なによりこの演目をここまで形にするその実行力に脱帽します。染五郎さんの情熱がこの座組の原動力になっている、ってことがすごくよく伝わる舞台でした。いやあ興奮した。最後は皆でスタオベ、笑って踊って大団円。いい舞台でした!