「桜の園」

シェイクスピアと並び称される偉大な劇作家なのに著作をまともに拝見したことがないという罰当たりです。もちろん桜の園も読んでない!ハッハッハ!しかし土田英生さんの「チェーホフは笑いを教えてくれる」を筆頭に、山崎清介さんもここのところチェーホフ作品をよく手がけていらっしゃったりして(あと井上ひさしさんの「ロマンス」で描かれたチェーホフがたいそう素敵だったというのもあり)、今回の三谷さんのトライアルは渡りに舟とはこのことか、というね!

もともとチェーホフはこの作品を「喜劇」として書いたにもかかわらず、その悲劇性だけがクローズアップされてしまっているということで、今回の三谷さんのトライアルはまさにそのチェーホフが狙ったとおりの「喜劇・桜の園」を見せるというもの。

ただ実際過去の三谷作品から想像するスラップスティックな感じは薄く、喜劇として(特に三谷さんが演出するものとして)想像していたものよりは重さの残る作品になっていた感じでした。重さが残るのが悪いという訳では勿論ないのですが、そのあたり三谷さんとしてはもう一歩踏みこみたいところがあったのかもなあと思ったり。でも、ずっと重い球を投げられるよりは見やすさは格段にあがっていたと思いますけれども。

しかし、三谷さんは他人の戯曲を演出するのが今回初めてということなんですが(それもすごい話だよね)、私がなにより舌を巻いたのは群像劇としての人物の交通整理のうまさです。馴染みのない名前だからよりキャラクターの立ったキャスティングを心がけたとのことですが、普通に見ていれば人物相関図が無理なく頭に入ってくるのは演出家の手腕に他ならないでしょう。ほぼフルメンバーが舞台上にいても混乱しない、場面を子ども部屋に限定したことによって出入りも増えていますがそれもまったく無理がない。いやはやさすがです。

ロパーヒンを市川しんぺーさんが演じてらっしゃったのですが、まさに物語の大きな柱となる熱演でした。特に3幕のすばらしさ!ワーニャの神野三鈴さんもよかった、あの常にちょっと困ったような顔となによりあの声がすてき。藤井隆さんと青木さやかさんがキャスティングされていたんですが(藤井隆さんは過去に何度か舞台で拝見していますけども)、芸人さんがこうした舞台に出られるときの安定感ってなんなんでしょうかね。細かいやりとりでも確実に笑いを拾っていくところもさすがでした。そしてなんといっても今回のキャストの肝でもある浅丘ルリ子さんと藤木孝さんのラネーフスカヤとガーエフ!もう、あんなにも素直に「ロシアの没落貴族」というのを信じられる佇まいってあるだろうか!普段三谷さんが組まないキャストが大半を占めただけに、新鮮な発見が多い舞台でした。