「エッグ」NODAMAP

先にご覧になってるシアターゴアーの方々が一様にネタバレるので…と感想を控えていらっしゃったので、なんとなくこれは白紙で見た方がいいのかなーと思って意識的にバレを回避して見てきました。確かに、これは先につながるものを知らずに見た方がいい芝居です。以下、極力具体的な事実には触れずに感想を書いてみますが、これからご覧になる予定の方はお気をつけください。
スポーツとJ-POPの話にしようとした、ということはこの舞台が発表になった頃から野田さんは仰っていて、それを聞いたときから私は野田さんに「いやなことを言われる気」満々でした。「いやなこと」というのは、J-POPだかJ-ROCKだかに人生振り回されたことのある身の上として、耳の痛い話をされるんだろうなあと、あの「表に出ろぃ!」の時のような気持ちを味わうんだろうなあとどこかで思っていたのです。スポーツと音楽、これを取り上げるということは、野田さんは大衆の熱狂というようなものにも少なからず触れてくるんじゃないかと。しかしその予想は外れました。

普通「物語」を見るときには、積木を重ねていくようにひとつずつエピソードを積み重ねていくものですが、この芝居ではその見方はまったく通用しません。積み重ねたものは何度も突き崩される。ある種入れ子構造のように箱の中の中をのぞいていくような感覚に、なんだか夢の遊眠社時代の作品を思い出したりしておりました。パンフレットで秋山菜津子さんもそう書かれてらっしゃって、うんうんと強く頷いたり。とりあげている題材は遊眠社時代とは違うものですが、こういう作品の見せ方には問答無用で興奮してしまうところがありましたね。

昔はどれだけ物語の軸がぐるっと動いても大事なところはしっかり持っていられた、という気がしたのに、今回はちょっと、ついていくのに精一杯というか、ものすごい集中力を要しましたね…歳、なの、かな…(遠い目)幸いにして千秋楽を拝見できる予定なので、そこでもう一度確認したいな、と思う場面も多々あります。

しかし、最終的にたどり着きたい地点があって、そこに着くためのツールとしてスポーツと音楽を選んだ、という風にはあまり見えなかったのが個人的には気になったところでした。とくに「音楽」の部分がなんとなく宙に浮いているというか…。劇中に音楽が入る、ということに対して構えてしまう私ですが、椎名林檎さんの楽曲も深津さんの歌もとても良かったけれど、それがこの着地点への重要なフックには見えてこなかったというか。

秋山さんの台詞の「スポーツと音楽のオーナーになれば、この世の大抵のもののオーナーになれる」という言葉がすごく印象的で、そこに野田さんが針を突き刺すような芝居もまた観てみたいという気もしたり。

野田作品の常連のなかに初参加の仲村トオルさん、器用にソツなく、という感じではないからこそこの役にはずっぱまっていた感じがあります。重厚であるが、愚直でもある。あの肉体はしかしすごいね…!思わず本物!?と思ってしまったではないか。そして相変わらず秋山菜津子姐さんがすばらしい。深津さんのキュートさとあの声の魅力はまったく衰えることを知りませんな。妻夫木くんはここんとこ連続して野田作品に起用されていますが、どれだけ悲劇的なことを語っていてもどこかに明るさを感じさせるあの声はやっぱり貴重だなーと改めて思いました。

できれば、千秋楽を見た後にまた感想を書き足せればと思っております。