さよならするのはつらいけど

芝居を観に出かけていく新幹線の車中でそのツイートを見た。最初は意味がわからず、とりあえずその人の名前で検索をかけた。大阪のラジオで訃報が伝えられたというツイートがものすごい勢いで増えていて、やっと、そうなのか、と思った。牧野エミさん、亡くなったのか。

最後に舞台を拝見したのは多分MOTHERの解散公演だとおもうから、もう10年ちかくご無沙汰していたことになる。私は、自分が芝居にはまったきっかけが第三舞台だったということもあって、芝居を見始めた当初は関西在住であるにも関わらず東京を本拠地とする劇団の芝居ばかり足を運んでいた。新感線や、南河内万歳一座や、MOPやリリパやMOTHERや遊気舎を見るようになったのはしばらくたってからだった。だがいったんそこに足を踏み入れたら、牧野エミという名前はあっという間に頭に刻まれることになった。

しかし、いまこうして名前を並べるだけでも、あの頃の関西小劇場の濃さと勢いというのはすごかったんだなあと改めて思う。そう、彼らは濃かった。そして牧野エミさんは、その踏んでも叩いても潰されない個性派の役者たち、升さんや生瀬さんや古田さんらの中にあって、彼らと対等に渡り合うことのできた数少ない女優のひとりだった。

MOTHERでの公演もさることながら、個人的に思い出深いのは「12人のおかしな大阪人」「12人の入りたい奴ら」「止まれない12人」のシリーズ三部作。特に、「止まれない12人」で見せたエミさんの役の鮮やかな変わり身はちょっと忘れがたい。どれもこれも10年以上前の記憶ばかりだが、それでも鮮やかに思い出せるような気がするのだから、舞台の記憶というのは不思議だ。

あの熱狂の時代を支えた、いや、先頭に立って切り開いてきた女優さんでした。
心よりご冥福をお祈りいたします。