「祈りと怪物〜ウィルヴィルの三姉妹〜KERA version」

ケラさんご自身がツイッターで「俺史上最長」と呟かれているのを見てまさにTLがざわめきましたよね…いつも長いと言われる、と私が最初にナイロンを見た15年前から言われているのに、そのケラさん史上最長とは!慣れているとはいえ多少気構えるところはありました。
ですが、実際に観ると(「百年の秘密」でもそうでしたが)体感としては長さを感じません。それが毎回思うけどスゴイ。だって4時間だよ!どんだけ好きなライブや映画でもそうとうキツい。ましてや芝居では(10分の休憩時間が2回入るとはいえ)ものも食べずにじっと座っていなくてはいけないのだ。それなのに「なっがいな〜」と思わせない。それだけ物語る力がハンパないということです。

百年の秘密は「人物」に焦点を当てた大きなドラマでしたが、今回は人ではなく「街」が大きな枠組みになっていて、登場人物はその大きな枠の中であるものは浮かび、あるものは沈み、そして殆どのものはその街に踏みつぶされていく。これだけのキャストを贅沢に「街の物語」に奉仕させていて、「あーもっと見たかったな」と思うキャストの方もおりましたが、だからこそ隅々まで緊張感のある芝居に仕上がったのかなとも思いました。

以下、具体的なネタバレを含みますので畳みます。
ここまでダークネス、かつばんばん人が死ぬケラさんの舞台はなんだか久しぶりのような。コロスを使ってきたのがまずびっくりで、蜷川さんがやることを意識したのかな、それとも意識しつつのサービス精神かな、とか。この銃火薬の使用量はおそらく過去最高なのでは。

人の起こしたことが余波となって人に返ってくるさまを丁寧に描いていた百年の秘密と対照的に、まったく理不尽に、そして唐突に登場人物は浮かんでは消える。因果は決して応報するとは限らない(かもしれない)。そうした彼らの祈りが、それぞれに別の形で還ってくるのを見ていると、なるほど祈りと怪物とは、まさに、と膝を打つ思いでした。

こうなってほしい、と思う方向にまったく話が転がらない。人は裏切り、思いは届かず、決断は報われない。しかしもともと、人生というのはそういうものではないか。もともとそういうものでも、人間は祈らずにはいられない。

強欲な街の実力者を生瀬勝久さんが演じていらっしゃったわけですが、それはそれはもう絵に描いたような人でなしぶりで素晴らしかったです。生瀬さんのあの声卑怯よな〜。従わざるを得ない気にさせるよ。そして怪女優木野花先生が今回もその月影先生っぷりを遺憾なく発揮しておいででした。こわい!こわいよ!どっちの役もこわいよ!小出くんのやったトビーアスは劇中でいろんな変化を見せるので、ある意味もっともしどころのある役かも。弱気な雰囲気とかあまり見たことがなかったので新鮮だったな〜。そして毎回思うがあの緒川たまきさんの美しさは異常。基本的に舞台で造作の美しさとか気にしない私ですが(だって5列離れりゃもうわかんないヨ)、あの人は美しいっす。あれだけ美しいとあれだけ冷酷でも許せてしまう気がするよね…。大倉さんの自由演技(に見えるところがスゴイ)を、これまた自由に受けているようにみせる山西さんの達者さも際立ってたなあ。

でもって、これ蜷川版どうなるのかなーというのも気になるところですが、とりあえず生瀬さんの役を勝村さんがやるのは決定なわけで、もうこれ正直顔のニヤけが止まりません。100%ブラック勝村しかいないじゃないですか。おいしすぎる(私にとって)。演出やセットも含めて御大の手腕に期待しております!でも、上演時間はせめてこのままキープでよろしくお願いします!