「祈りと怪物〜ウィルヴィルの三姉妹〜蜷川version」

ケラ版の感想はこちら
パンドラの鐘のときもそうでしたが、こういう趣向である以上どうやっても「どう変えてくるか」っていうのを意識して見ちゃいますよね。
ケラ版ご覧になった方も、演出面でのネタバレ含みますので以下ご注意。

とにかく、毎度の事ながら蜷川さんの「渡された台本は全部やる」ぶりに唸らされました。両サイドに字幕を出していましたが、おそらくト書きと思われる文をそこに映し出すという徹底ぶり。いや、それだけではなくて客が字幕を目で追っている間に転換を進めてしまうというテクニックでもあると思います。ケラさんのセットはそれなりに造りこんでいて、それだけに芝居が上手下手どちらかに振られてしまっていたんですが(なのでコクーンシートとかだと、片方の芝居がまったく観られない、ということもあり得たかも)、そのあたり御大がどうするのかな〜と興味津々でもありました。蜷川さんそんなにセット転換するほうじゃないので、このコロコロ変わる場面をどうするのかな、と。いやしかしそのあたりは心配ご無用、お見それしましたという感じでしたね。舞台の上にさらにもうひとつ高い台を設置する、基本はこれだけであとはその台からの出し入れとバトンですべて乗り切ってました。それでまったく問題ないから芝居というのは面白い。

ケラさんがわりと王道なコロスの使い方だったのに対し、最初っからハッタリ満載というかケレンたっぷりというか、パッヘルベルに乗せてラップでやらせるというアバンギャルドさ、しかも御大、ここぞというところでケラさんの曲を流すっていう(しかも電光掲示板にアルバムタイトル出すという)荒技に椅子からずり落ちそうになりましたよ!

蜷川さんは渡された台本を勝手にカットしたり変えたりなさらないので、おそらくケラさんが完成脚本として渡したのがこのバージョンで、ケラさんのほうは逆にそこから肉付けしたり削ったりしたシーンがあったんだろうなーと思う部分もありました。でもって、やっぱりここぞ、というような劇的なシーン、カタルシスを得られるシーンでの力点の入り方がケラさんと蜷川さん、まったく違いますね。実際に本水を使ったりということももちろんですけれど、蜷川さんの演出はやっぱり重さがあるという感じ。だからなのか体感時間は長く感じたなあ。

それにしても本水にとどまらず、鏡は出す通路は使うモノは降らせるさらに落とす、おまけにラストはお得意のアレまで出てちょっと総動員にもほどがあるんじゃないですか蜷川さん!と思いました(笑)

ケラ版を見たときに、これは確かに群像劇だけど、ドン・ガラスとトビーアスは中でもしどころのある役じゃないか、と思い、それを蜷川版でやるのが勝村さんと森田剛くんというのはすごく楽しみにしていたところでした。トビーアスの剛くん、これかわいい剛つん好きなひとにはもんどり打つだろう、と思わせるいじましさと愛らしさでしたね。個人的には、後半もっと酷薄さを滲ませてくるのかなあと思ったんですが、そんなに豹変、というような見せ方にはしてなかったなあ。思うに、ガラスとトビーアスって(劇中の台詞にもありますが)「何も言わなくてもお前だけはわかってくれてると思ってたよ」という通り、真逆のようで実はただ背中合わせなんだなあというのを蜷川版を見て改めて思いました。陰惨な光景を思い浮かべるトビーアスの長台詞はケラ版では聞かれませんでしたが(時間の関係で泣く泣く、と仰ってたシーンのひとつかなあ)、そのシーンがあったことで余計トビーアスのある種いびつさも浮き彫りになってたような気がします。雨のなかで銃を挟んで向かい合う勝村さんと剛くん、の絵面はよかった、ああいうシーンをやらせるとほんと蜷川さんは期待を裏切らない!そして剛くんの最期は文句なしに美しい!

勝村さん、貫禄を出すためかスーツに仕込みがあって、それも悪くないけどスッキリしたカッちゃんで見たかったなーという気もしたり。しかし突然の理不尽な激昂とか、容赦なく相手を踏みつけるとか、Sっ気が花開くシーンには思うさまときめきまくりました。

個人的に舌をまくほどうまい、と思ったのは三田和代さんだったな〜。いやあすげえすげえ。三姉妹のバランスも蜷川版のほうがしっくりきた感じでした。三宅さんとさとしさんがコンビで、これは見た目のバランスも含めてうさんくささも満点ですごくよかったです。

全体的に役者として突出しているというか、このキャストはこっち、このキャストはあっち、で好みでマルをつけていったら、おそらく蜷川版の方に多くマルがつきそうなんですけど、芝居として好きなのはケラさんの方かなあ。最初に見たものを親と思うみたいなことかもしれないですが。いやしかし、どちらも凄く楽しませてもらいましたし、趣向としてこんなことを仕掛けるほうも、受けて立つほうもお見事でしたというほかない。また蜷川さんへの新たな挑戦者が現れることを楽しみにしております(笑)