「教授」

スズカツさんのオリジナル新作で椎名桔平さんや高橋一生くんがキャストとして並んでいて…と、自分がチケットとらない理由がない!というようなラインナップなのにぎりぎりまでチケットとってませんでした。多分、五木寛之とか昭和歌謡とかアフターライブとかいう要素に「ん?ん?」ってなっちゃってたからだと思う。

で、見終わっての一番の感想は「ああスズカツさんの作品だ」ってことで、スズカツさんの新作を見に行く!というのを楽しみに来た方には8割ぐらいは満足できるんじゃないかなあと思います。少なくとも私はそうでした。開演前のSEこそジョン・レノンではないですが、冒頭のシーンからスズカツ印ともいうべきしんしんと冴えた明かりと、差し挟まれるノイズとお馴染みの光景を見ることができて、これが青山円形でないのが不思議なぐらいだと思いました。

これは私の勝手な感覚なんですが、スズカツさんの作品には定点観測の視点があって、それは動きたくても動けないのか、動こうとしているのか、それとも動く意志がないのかはさまざまですが、どこか流れの中で立ち止まっている男の視点というのがあるような気がするんですね。この作品もまさにそうで、椎名さん演じる「教授」はまさにその定点観測の人物であるように描かれています。

さっき「8割は満足できる」と書いたけど、じゃあ残り2割はなにかというと、今回の芝居はもうひとつ別の視線が入っているからで、それが田中麗奈さん演じる助手なわけだけど、ここにぐっとくる物語を感じることができなかったのが原因かなあ。

教授の「生きているスピードを速めたい」という台詞や、世相に対するスタンスを登場人物たちが語っていくシーンは魅力的だったんですけど、これももう少し人数を絞ってもいいような。伊達さんがかなり長いこと出てこないので「もしかして私伊達さんのことわかんなくなってるのかな…」と怯えましたが出てきたらちゃんとわかりました(当たり前だ)。一生くんがやった革命の戦士、のちに「転向」して厚生省の役人になる男と教授のやりとりは一貫して魅力的でしたね。一生くんが最後の最後に人間としての嫉妬のようなものを教授に一言だけぶつけてしまうシーンはすごくよかったです。

中村中さんや上條恒彦さんの生歌はよかったし、最後の昭和歌謡クロニクルと題したアフターライブも楽しかったのですが、肝心の作品の中での「歌謡」の位置づけと宣伝とのギャップもあるような気もしたり。

そのアフターライブゲスト、私がみた回は山崎育三郎さんで(レミゼでマリウスをおやりになるそうな)美しい歌声で「悲しくてやりきれない」を聞かせてくださいました。途中の観客への目の配り方がなんつーか、さすがミュージカルスターだぜ!と思いました。うーむ目と耳のご馳走。