九月花形歌舞伎夜の部「陰陽師 滝夜叉姫」

実のところ配役が発表になった時、あまりのことに携帯を一旦閉じた(そしてまた開けた)(消えてなかった)ぐらい、マジかこれマジか晴明を染さまで博雅が勘九郎さんってマジか!と挙動不審に陥るほどでした。夢枕獏さんの原作も大好きですし岡野玲子さんの漫画も大大好きです!なんかもう逆に「これでちょー期待はずれとかだったら目も当てられない…」とか思っておおっぴらに喜べなかった私です。乙女か!違うけど!

新開場した歌舞伎座で初めてかかる新作、しかもこの花形中の花形を揃えに揃えた顔ぶれ、加えてそれぞれの役者のニンに合った配役、チケットの動きは結構早いだろうなというのは予測してはいたんですが、その予測以上でしたね。おかげさまで素晴らしいお席で拝見できてもう…言うことない!

言うことない、と言っておいて今からいろいろ言うんですけど、作品的に言うことなし!と太鼓判、というところにはまだやっぱり至っていない、当たり前ですけど。どうせ改訂するのなら、ドラマを負う人物をもっと絞ったほうがたぶんスッキリ見られただろうなという気がします。登場人物の中でもっとも物語性を負うのが秀郷になっている(かつての友と相対峙し、それを葬り、そしてまた再び相見える)ので、後半の主軸が秀郷にないことでドラマが分散してしまってる印象になるというか。

演出的には何しろ題材が陰陽師中島かずきさんお得意の世界、かつ用語も「阿修羅城」や「髑髏城」を彷彿とさせるものがバンバン飛び交うというのもあって、新感線を思い出さない訳にはいかないわけですよ…(だって新感線見てる時間の方が長いんだもん)。なので、歌舞伎として見るには落ち着きがないけど、心情的にはもっとスピーディーな展開でもいい、とあちらを立てればこちらが立たずというか。滝夜叉姫と晴明が対峙するとことか、せっかくなんだから踊りを入れてほしかったよなああ、なんてのも思いました。

とダメ出しのようなことばかり言っているけれど、観てよかったかと言われればそれはもうぐりぐりの二重丸で観てよかったーーー!!!と諸手上げて言える!いやこれはまだ荒削りだけど、鉱脈ではあるんじゃないですか。もっといろんなところに手を入れて、ブラッシュアップしていってほしい!です!滝夜叉姫に限らず、せっかくこんなに晴明と博雅にずっぱまった役者がいるんだから、他の作品から立ち上げてくださってもいっこうに構わなくてよ!

これだけ花形が揃うと、なかなか観られない顔合わせががっつり組んでいるところも観られるわけで、しかもほんとにみんなあて書きのようなハマりっぷり。秀郷の松緑さん、今月は昼も夜も大活躍!歌舞伎味をけっして失わない端正な役作りですごくよかったです。海老蔵さんの将門もさすがの眼光、首が飛んでも、が似合う似合う。

それになんといってもマジこの舞台ありがとーー!!ってなったのは二幕の土御門の晴明屋敷のシーンですよ!ぎゃーん!あの濡れ縁!一見荒れたように見える庭!ふたりで酒!さらに博雅の笛!想像してごらん(イマジン)、自分の好きな役者が自分の好きなキャラクターを最高のシュチュエーションで演じている状態を!正直、ここ物語の展開には関係ないっちゃないんですけど、でもここがなくっちゃ陰陽師じゃないやい!やいやい!と思っている私なので本当にうれしかったデス…。存分に萌えられた。しかも「では、ゆくか」「ああ、ゆこう」もちゃんとあった。感涙。

んもうあれだよ、ひさびさに「勘ちゃん…!」って言いたくなったもんね。襲名されてからこっち、もうすっかり「勘九郎さん」だなあって思ってたしそう呼んできたけど、なんか染さまと一緒だと勘ちゃんになるっていうかいやもうなんか…かわいい。もう。かわいい(語彙貧乏か!)

狐の人形(パトラッシュ)使いに染さまの新感線魂を見たような、そうでもないような、しかしほんと偉大な男です市川染五郎という人は。いろいろワクワクさせてくれてありがとうごぜえます。これからも期待しています!