「MIWA」NODA MAP

いつにも増してチケット争奪が激戦だったのはやっぱり今回美輪明宏という人物を取り上げている、ということもあったのでしょうか。しかし、実在の人物をモチーフにするとはいっても、野田さんのことだから伝記のようなものをやるわけないのだし、ご本人がおっしゃっていたように「デタラメ」な、しかしデタラメでありながら確かにこれは美輪明宏さんだなあというようなところに帰着するのを想像していたんですが、それは当たったとも言えるし、外れたとも言えるし、という感じ。
以下作品の具体的な展開に触れるので畳みます。
展開としては、思った以上に美輪明宏本人の物語に沿ったのだなあという印象です。「紫の履歴書」などの著作にあったエピソードや、実在の人物との交流や、そういうものがかなり具体的に描かれている。もちろん事実をなぞって終わっているわけではないんですが、しかしモチーフとなった出来事は容易に推測ができるようにはなっています。

しかし、美輪さんをモチーフにした、ということはすなわち野田さんの出身地である長崎をモチーフにする、ということでもあるんだなということを改めて思いました。かつてサイモン・マクバーニーだったかしら、原爆をテーマにすることについて、それは自分の出自とは関係ないと語った野田さんに、関係ないことはない、少なくともイギリスに生まれた僕はそれを描こうと考えたことはない、と言われてハッとした、と仰っていたのを思い出したりしました。野田さんにとって美輪さんは昭和だとか愛だとか、という鉱脈でもあったでしょうが、長崎という鉱脈でもあったんだなあと。

作家に対して現実で戦わざるを得ないものと紙の上で楽しんでいるものの違いを語るシーンはすごくよかったです。あと、愛に関する格言が出てくるんですが、それを読んでいるのはしのぶさんや橋爪さんで、その中に橋爪さんがリアルで言ったやつも混ざってて笑いました。

彼の生い立ちがひとつの「ショー」として演じられているのだという入れ子の構造があって、時系列が飛びまくり登場人物がはげしく入れ替わる、というところは個人的に好きな構図でもあり楽しめました。あと相変わらず布やら紙やら素材の活かし方見せ方が素晴らしいですね。

個人的にすごく残念だったのは、物語の終盤になればなるほど、彼の歌をテープに(というか、ありものの音源に)託してしまったことでした。当たり前だけれど、歌、音楽というものの「ナマ」の威力は凄まじい。それは一本の芝居の印象を用意にひっくり返すことができるほどのものです。もちろん実際に歌えというのではなく、演劇だからこそできる彼に唯一残された歌の表現ができたんではないかなあと思ってしまう。でなければ結局のところ、彼の実際の歌に抗し得る術が演劇にはないような印象が残ってしまうのじゃないか。

今回宮沢りえさんが美輪明宏を演じているんですが、古田新太もまたある意味もう一人の「MIWA」なので、古田さんの硬軟自在さが堪能できるのは嬉しいところ。あと劇中劇をはじめとするめまぐるしい展開の中で成志さんがしっかり存在感を放っていてさすがでした。りえちゃんの輝きは言わずもがな。小出くんのやった役がすごく好きなんですけど、終盤もう一声伸びが欲しい感じ。

パンフによれば野田地図の次回公園は2015年春だそうです。遠いなあ。いや、経ってみればあっという間ではあるのでしょうが。