「真田十勇士」

去年の秋にも上川さんの主演で同じく「真田十勇士」ありましたよね。あちらは芯が真田幸村でしたがこちらは勘九郎さん演じる猿飛佐助を中心に「十勇士」を描くという形。

脚本の構成上できるだけネタバレしないほうがいいかなと思うので、一応ここから畳みます。
MOP好きならば途中から顔がにやけること請け合いの、いかにもマキノ印!という脚本にうれしくなっちゃいました。いや、うまいこと得意技を使ってらっしゃいますよ。歴史の隙間で遊ぶ筋書きではあるんですけど、ちゃんと登場人物それぞれに「義」を見せるシーンを振るところがねえ、やっぱり劇団の座付きだったひとだよなあっていう。

「智将真田幸村は実は偶然の産物」というそもそもの設定を、まったくいやな感じでなく(幸村の魅力はぞんぶんに見せつつ)展開させていくのがうまいなあと思いましたし、口八丁口八丁でその幸村を担ぎ上げる猿飛佐助も、いってみればルパン型(新感線で言えば捨之介型?)のヒーローで、おちゃらけているがいざというとき頼りになる人物像が魅力的だし、その分霧隠才蔵が二の線を存分に請け負ってくれるという良くできたトライアングル。なおかつ、最後の最後はきっちり「真田幸村」を立たせた芝居に仕上げてあるところがほんとマキノさん、熟練の腕だわあ。

天下に対して大きなウソを突き通して真にする、というそのそもそもの出発点と、才蔵が佐助たちと与するところにもう一枚ドラマがあると終盤もっと盛り上がるのになーと思ったりもしましたが、まあそれはちと贅沢かな。

セットや背景に映像を映しだすとか、幕を下ろしてスクリーン替わりにするとか、まあ好みかどうかっていえばまったく好みじゃないです。でもまあ演出堤さんだしなあ、と予想していたところではあったのでそれほど拒否反応というわけではなかったんですけれども。とはいえ、ラストで燃え落ちる大阪城、血路を開かんとする十勇士の生き残り、みたいなシーンでね、スクリーンに燃える城映して、どうする、とも思うわけですよ。セットもなんにもなくても赤の照明差して「火の手が!」だけで、なんだったらその台詞がなくてもああ、火が回ってきたんだなって「わかる」のが演劇の強みじゃないですか。あそこはケレン味の発揮のしどころだろうと思っちゃいますよ、やっぱり。

とはいえ、幸村が自分の「たまたま」ぶりを説明するところのスクリーンの映像はかわいらしくて大笑いしちゃったんですけどね(笑)あのイラストよかったなー。「やけっぱちだー」とか、ちょうかわいかった。

個人的にはワイヤーアクションはあってもなくてもよかった、という感想なんですけど、舞台上かなり大勢の人数で狭い間合いでの立ち回りがたくさんあって、合戦シーンの迫力は見事だったです。あと散っていく十勇士ひとりひとりの最期をちゃんと見せていたのも好感。

勘九郎さん、前述の佐助のキャラを実にイキイキと、手綱を時には緩め時には締め、実に硬軟自在の存在感で堪能いたしました。動きのキレと所作の美しさはさすがに天下一品ですね。才蔵とのコンビがすんげー良くて、ああ〜〜この二人もっと仲良くしてもいいし逆にもっと仲悪くて殺し合ってくれてもいい!と変態的なことを考えていましたが割とその両方が劇中で叶ったのでマキノさん乙女の心読みすぎですううと思いましたマル。才蔵が松坂桃李くんで、舞台で拝見するのお初です。つーかあんなグッドルッキングな青年が動いて良し喋って良しとか、おいおい天は二物を与えないんじゃなかったの!?ちょっと!!と詰め寄りたくなる(誰に)。佐助がアカレンジャーなら才蔵はアオレンジャー、クール&キザがはまるはまる似合う似合う。

十勇士全員のキャラがきちんと立っていて、見終わったあとちゃんと名前と顔が頭に思い浮かぶのがいいよなあ。加藤和樹さんの鎌之助とか、長物での立ち回り見応えありました。個人的に好きだったのは望月六郎海野六郎の朴訥キャラ。加藤雅也さんの幸村、すごく魅力的でしたし、あの人に「顔がいいのもツラい」と言われても誰も言い返せない(笑)敵方の音尾さんの渋さもよかったです。淀殿真矢みきさんはあれだ、最初の出の場面でスパーン!と客席に目線をやるところ、ヅカの底力ありすぎでした。やっぱすげえな。

三津五郎さんのナレーションもたいへん楽しく(勘九郎さんが『病気なおってよかったですねー!』とナレーションに向かって話しかける一幕も)、笑いどころもふんだんにあってリラックスして楽しめた一本でした。