「おそるべき親たち」

2010年にこのメンバーで上演、好評を得たということで今回の再演に至ったそうです。初演は未見。昨年観た「鉈切り丸」での麻実れいさんの、あまりといえばあまりにも、な「圧倒的オーラ」に打たれ、次の公演予定になっていたこの作品もぜひ、と思っていたところでした。

22歳にもなる息子、ミシェルが無断で外泊したというだけで死ぬの死なないのと大騒ぎしているその母親のイヴォンヌ、それをどこか突き放したような視線で見つめるイヴォンヌの姉レオ、イヴォンヌに振り回されるその夫のジョルジュ。太陽のような息子ミシェルは悪びれもせず実にあっけらかんと帰宅し、母のことを「ソフィー」と呼び、親友だとのたまい、彼女をハグし、抱きしめ、キスをして転げ回る。そんな甘い「愛する息子」の顔をしたまま彼は母親にこう告げる。ぼく恋人ができたんだ。

半狂乱になるイヴォンヌ、しかし事態はそれでは収まらない。ミシェルの言う恋人は実は父ジョルジュの愛人でもあったのだ。混乱する彼らを見て、レオはジョルジュにこう囁く。わたしにいい考えがあるの、なにもかも元通りにしてあげるわ。

いやー、おそるべき親たちというか、おそるべき俳優たち、というか、堪能、堪能しました。人間、こんなにどうしようもないもんか、というような姿をこの役者陣で見られる贅沢さったらない。なにもかもが散らかった美しくない部屋でだらしなく横たわる麻実れい、なんて、それだけでもうちょっと面白いもの。

以下ちょっとネタバレです、畳みませんが未見の方お気をつけて。
恋人マドレーヌの部屋で、底の浅い嘘をつかせるジョルジュもジョルジュなら、信じるミシェルもミシェルですが(ほんと、親子…)、てっきりこの「嘘」が取り返しのつかない事態を招いてしまう(たとえばミシェルが首を吊る、とかさ)、みたいな後味の悪い幕切れを予想していたんですけど、私の予想の遙か上を悠々と超えていてほんと唸りました。ミシェルがイヴォンヌに取りすがって彼女の身体を舐め回し、スカートをたくし上げて自分と事に及ぼうとするあの必死さ、登場人物のみならず、観客も砂を舐めたような気持ちにさせられるインパクトがありました。

結局のところレオは、恋人を自分の意のままにするカードを手に入れ、その恋人を奪った妹を死に追いやり、甘い恋の砂糖水を一瞬味わわせた若い恋人たちにはその選択の取り返しのつかなさを思い知らせることに成功するのだ。そして幕切れのあの台詞ですよ。ろうそくを手に玄関のベルを「家政婦だった」と告げるレオ。イヴォンヌの死体の前に立ちこう呟く。「大丈夫、心配いらないって言っておいたわ。全部きれいに片付いてますって。」そしてろうそくの火をふっと吹き消す。暗転。

キエーーーー!!!!オリエさま もう 抱いて!!!

と言いたくなるぐらいかっこいい、こわい、かっこいい、最高の幕切れ。久しぶりに格好良さで首がかゆくなったよ…ほんと、しびれた。

麻実れいさんと佐藤オリエさん、いやもうほんとどっちもすごすぎるのですが、あのオーラ出し入れ自在の麻実さまを相手どって、時には力であの麻実さまをねじ伏せるような芝居をする佐藤オリエさんの巧さったらもうもうどうしたいいんでしょうか。ハブ対マングースってこういうこと?(違う)どこにも芝居を「盛ってる」感じがないのに、どんなテンションで台詞を言っていてもこちらの呼吸を面白いようにつかんでくれる。それで相手が麻実さんや中嶋しゅうさんなんだから、見応えあるなんてもんじゃない。中嶋しゅうさんのジョルジュ、ほんっとに「ダメ」な男なのに(あのマドレーヌとのシーンのダメさ、あまりにもあまりで震えたわ)、この人がやるとちゃんと役に愛嬌が残るのがすごいよなあ。このメンバーの中にあっては中島朋子さんでさえ「若手」の部類だけれど、もっと若手の満島くんもともにこの面々とよくがんばってわたりあってる…!と心から拍手を贈りたくなりました。

カーテンコールでは麻実さんが常にオリエさんをエスコートして退場していて、なんかそれもっっっとに絵になりすぎる!なりすぎるんですよ!格好良いんですよ!!舞台の上で圧倒的であること、にはいろんなやり方があって、そのなかでもタイプの違う二人の女優のまさに「圧倒的」な仕事を見せてもらった感。満足!!