「コリオレイナス ナショナル・シアター・ライヴ」

イギリス国立劇場であるロイヤル・ナショナル・シアターが、イギリスで上演されたすべての舞台の中から厳選した演目をデジタル映像化し、世界各国の映画館で上映しているプロジェクト「ナショナル・シアター・ライヴ」の日本公開作品第2弾。ウィリアム・シェイクスピアによる政治の陰謀と復讐を描いた悲劇で、「マイティ・ソー」「アベンジャーズ」のトム・ヒドルストンを主演に、サム・メンデスが芸術監督を務めていたことでも知られるロンドンの劇場「ドンマー・ウエアハウス」の芸術監督ジョシー・ルークが演出した「コリオレイナス」を上映。コリオレイナスの友人メニーニアス役を、人気テレビシリーズ「SHERLOCK シャーロック」のマーク・ゲイティスが演じている。

コリオレイナス」は2007年に蜷川さんの演出で観たものがすごく好きだったので、シェイクスピアの本場イギリスでどのように上演されているのかっていうのがすごく興味あったんですが、これが想像以上にこっちの身の丈にあった感覚だったのが驚きました。そもそも劇場自体が元バナナ倉庫を改装したっていうところで、イメージとしてはKAATの大スタジオやシアタートラムに近い感じ、わりと高さのある客席が三方向から囲んでいて、アート館を彷彿とさせるところもあったり。

セットらしいセットはなく、下半分が赤く塗られた壁とそこにかかった梯子、そして椅子。衣装も基本的に現代風で、キャストはそれぞれが出番のない間もその椅子に腰掛けて舞台を見ている。アンサンブルは3人〜4人で、彼らがメインキャスト以外の役を入れ替わり立ち替わり演じていく。オープニングでは子どもが床に赤い線を引いていくんですが、あれは議会のsword lineを意識しているのかな。

なんつーかうまく言えないですけど、今までそれなりにシェイクスピア作品が演じられるのを見てきて、そこにはいろんなアイデアと工夫と格闘があって、まあうまくいったりいかなかったりするんですけど、そういうのってイギリスでも日本でも変わらないんだなあ、って見ながら思ったんですよね。そのこと自体がなんかちょっとぐっときたというか。

護民官ふたりのキャラクターが強烈で、民衆にというか「護民官の操る」民衆に追い落とされるという印象が強く残ったのもおもしろかったです。護民官のひとりが女性になっていて、これも面白い改変でした。原作ではシシニウス、この芝居ではシシニア、なのかな。男2人の護民官だと「面白くないから生意気なあいつを引きずり下ろそうぜ」って感じになるところが、男女になるとどこか「引きずり下ろすのが正義」みたいな色彩を帯びてくるのが不思議だった。

それにしても、ほんとみんなうなるほどうまい。当たり前ですか。いや当たり前にみんながうまいってことのありがたさを思わないではいられませんよ。前述の護民官をやったHelen Schlesingerもだし、ヴォラムニアをやったDeborah Findlayのいかにも猛き母という佇まいもすごかった(蜷川版でヴォラムニアをやった白石加代子さんとどこか相通じる風貌なのも面白い)。ドラマのSHERLOCKを見ているときはそんなこと思ったことなかったけど、マーク・ゲイティスのやったメニーニアスを蜷川版でやったのが吉田鋼太郎さんだったので、一瞬似てる…!?とか思ったんですけどあれですね、頭髪のあれかもしれませんね(ごまかすな)(ごまかしきれてないし!)彼がコリオレイナスのテントを訪ねるシーンの去り際とか素晴らしかったなー。

トム・ヒドルストンコリオレイナスは、前半の武人然、軍人然としたところよりも、ローマを追放されてからの、どこか寄る辺無さがあるほうがより本領発揮だったような気がしました。まあとにかく五幕三場、妻子と母の訪問を受けるシーンのすばらしさよ!あの、O mother, mother!それだけで泣ける。格の違いを見せつける芝居だったよなあ。あと、徒手空拳でオーフィディアスの館を訪ねるところね!まあ、私の大好物のシーンだよね!あそこで死を覚悟した一瞬後に抱きしめられる(うえに猛烈にキスされる)ときの「えっえっ」って感じの顔とかおいおいテメエいい顔見せてんじゃねえぞコノヤロウいいぞもっとやれ状態でした。

勘違いだったら申し訳ないんだけど、なんとなくオーフィディアスの台詞がいくつかカットされてたような…というか、五幕後半、あのテントの訪問から一気に「裏切り者、誰がお前をコリオレイナスの名で呼ぶか」のシーンに飛ぶので、ヴォルサイの諸卿の前でのオーフィの演説はまるっとないし、四幕七場での台詞ももうちょっと長かったような(こっちは自信なし)。でもあのシーンでのOne fire drives out one fire,one nail,one nail.とかは原語ならではのカッコよさよなーと思いました。最後もね、今回の舞台では吊されるという演出上やむなしなんですけど、足蹴にして一説ぶったあと死んだコリオレイナスの身体を抱きしめるオーフィディアスっていうのも大変おいしいのでそっちも見たかった…とか欲望、果てしなし。

それにしても、コリオライでの死闘のあとにトム・ヒドルストンが文字通り血まみれになってたり、その血を洗い流すシャワーシーンもちゃんとご用意されてたり、オーフィディアスをやったハドリー・フレイザーがありがとう、い〜いヒゲです!ってヒゲっぷりだったり、そのオーフィと熱い接吻交わしてたり、最後はオーフィがコリオレイナスの身体から流れる血を浴びながら台詞言ってたり、まあいろいろとガチな空気満載でした。とても楽しかったです。

そうそう!字幕がひどい、と見る前に仄聞していましたので、基本、まあ間違いあるんだろうなというテイで見ました。後半になるにつれ誤字が頻発してて、みんな言ってると思うけど「武勇」を「武男」はないwwぶおとこって読んじゃうじゃねーかよー!まああの厖大な台詞を字幕に落とし込むのは大変なんだろうし、私も字幕頼りの人間なのである程度は、とも思いますが、せめて今後は基本的な誤字脱字だけでも一度チェックを…!と願わないではいられません。じゃないと思わぬところで吹き出してしまうよ!