「チョコレートドーナツ」


アラン・カミング目当てで行ってきました。舞台は1970年代のアメリカ、カリフォルニア。歌手になることを夢見ながら、今は口パクのショウダンサーとして日銭を稼いでいるルディと、自分がゲイであることを隠して生きてきた弁護士のポール、そしてヤク中の母親に見放されたダウン症の少年マルコが出会い、ひとつの家族となる。実話をベースにしたストーリーだそうです。

とにかくすごいなと思ったのはこの映画における最高に幸せな時間も、打ちのめされ二度と立ち上がれないかと思うような時間も、その先にある光も、アラン・カミングの歌に託しているところ、そしてアラン・カミングが見事にそれに応えきっているところでした。最初は、ルディはゲイバーで口パクで踊っているという設定だったので、「えっまさかアラン・カミングに歌わさない気…?」とか思いましたけどもちろんそんなことなかった。そりゃそうだよ。すべての歌がすばらしいですが(オーディションに受かって白い衣装で歌うとこなんか、くっはー!とため息つくほどよかった)、やはりラストのI Shall Be Releasedは圧巻です。涙に暮れたり、悲嘆に暮れたり、それこそ彼らのささやかな願いを打ち砕いた人間に怒りをぶつけたりといったようなエモーショナルな場面は、描こうと思えばいくらでも描けると思いますが、そういった極端な感情を描くことよりもあの歌で伝わるものは伝わる、ということなんだろうなあとおもいます。

あの弁護士とのやりとりよかったな。「人生は不平等なんだな。」「法律学校で最初にそれを習わなかったのか?それでも戦うんだ。」

あと自分の泣きのツボがなんなのかっていうのが自分でよーくわかった映画でもありましたね…。ルディがマルコに「おはなし」を読んであげるシーン、あれ2回とも「あっこういうのダメだわたし…!」と自分でうろたえるほどに涙が勝手にぼわあっ、と滲んできちゃってまいった。読んであげるアラン・カミングの表情がまたいいんだよね。

子どもに物語を読むっていうのはさ、っていうか物語ってものそのものがさ、なんつーか日常をファンタジーで彩るちょっとした魔法、みたいなところがあるじゃないですか。物語の中ではマルコは魔法を使える少年だし、チョコレートドーナツはたくさん食べられるし、もちろんお話はいつだってハッピーエンドだもの。

2014年の今でさえ決して平坦ではない道を、想像もつかないほどにその道が険しかった30数年前にルディのように生きているひとがいたこと、ポールのように生きている人がいたこと、そしておそらくは数多くのマルコのような子どもたちがいた先に今の自分たちがいるんだってことを思い起こさせてくれる映画でした。