「赤鬼」

1996年初演、その後もタイ、韓国、ロンドンと各国で上演され、2004年に日本でも再演された文字通りの傑作が青山円劇カウンシルファイナルに登場。柿喰う客の舞台は拝見したことがなかったんですが、最近中屋敷さんのお名前をよく拝見して気になっていたのでこれはいい機会と。キャストも気になる方ばかりでしたし、特に玉置玲央さんを見れるのは楽しみでした。

以下、戯曲のネタバレはもちろん今回の演出等々についても具体的に触れていますので未見の方はご注意。

初演の劇場がパルコスペースパート3で、やっぱりその時の印象が鮮烈に残っているので、円形のサイズ感はしっくりきた感じがありましたね。やっぱりこれぐらいのコヤでみたい芝居だよなあ。

過去野田さんが演出したときともっとも異なる点は、キャスト4人きりではなくアンサンブルを使っていること、そして「赤鬼」のしゃべる言葉が観客に「わかる」ようになっていることじゃないかと思います。これはどちらも、観客に対してわかりやすい見せ方になっていると思うんですよね。今回赤鬼を演じているのは小野寺修二さんですから、見た目からも異形のものという感じはしないし、そして彼はわたしたちには「わかる」言葉をしゃべる。赤鬼としての得体の知れなさはずいぶん減じていると思います。そしてだからこそ、それを排除する側の精神の異形さが際立つという。アンサンブルを入れることも、実際にセリフをしゃべらないとしても「対集団」の構図は4人きりでやるよりもはっきり浮き上がってくるのは間違いない。

というように、戯曲における力点をよりくっきりと浮かび上がらせていて、実際にそれは成功していたとおもいます。個人的には、これほど完成度の高い戯曲なので、逆にもっとどこか突き抜けた、いびつな感じのものができあがっても面白かっただろうなと思いますが、まあしかしまともに読めばどうしても正攻法でやってみたくなってしまうのかな。ただ赤鬼の使う言葉が途中変遷するんですけど、その意図はちょっと汲めずじまいでした。

そうそう、初演再演ともに拝見してますが、今回あらためて「あの女」自身もあの土地のよそ者だということにちょっと胸を衝かれる思いがしました。それにしても、人が山に登るのは、見通せる向こうがほしいからだ、なんて、ほんと綺羅星のようなセリフだなあ。

期待していた玉置玲央さん、あーはい、好き、好きです、あっはっは(なぜ笑う)いやー途中しみじみ「すきだわー」と思ったところがあって、まんまとそう思ってる自分に思わず笑ったというか。つーか、ミズカネはほんっといい役だよね!初演段田さん、再演大倉さんで、それぞれ違う味が楽しめるっていうか…あの「嘘だよ。お前とやりたいからだよ!」も好きなんですけど、玉置ミズカネは中盤の「ひどい女だな」ってとこもぐんぐん好きでした。なんだぐんぐん好きって。黒木華さん、声を張ってもきゃんきゃんならないあたり、完全に野田さんの好きな女優の系譜だよねと改めて。

ミズカネやあの女の手数の多さが目立つけれど、やっぱりこの芝居を最後の最後にかっさらうのはとんびなんだと思うんですよ。で、初演も再演も日本版とんびは野田さんで、ご自身がやることを前提に書かれているようなところがあるから柄本さんはそうとう大変だったんじゃないかと思う。とんびとしての芝居よりもそれ以外の場面でのほうが味が出ているような気もしたしなあ。ともあれ、最後のセリフでちょっと躓いてしまったのは個人的にはそこは!がんばって!と言いたいところではあります。

しかし、なんならもうセリフを覚えているんじゃないかと思うほどなのに、ラストの展開から続くとんびの台詞にはわけもわからず胸が締め付けられるのだから、いやーやっぱり、すごい戯曲ですね。