「太陽2068」

イキウメの「太陽」は未見です。*1もっとイキウメのキャスト陣が絡んだりするのかなって企画が発表になった時は思ったんですけど、がっつり蜷川ワールドでしたね。

不老不死というわけではないが、極端に老化が遅く、抵抗力があり身体が丈夫な「ノクス」と年も取れば怪我もし風邪も引く旧態依然の人類「キュリオ」。崩壊し、昼と夜に別れてしまった世界では、ノクスが世界を支配しようとしている。しかし、彼らは太陽を浴びることができなかった。

光に弱く体液(血液)の交換によって仲間を増やす…というと「バンパネラ…」と考えてしまう萩尾望都世代ですこんばんは。しかし、やっぱり蜷川さんだなあというか、キュリオの描き方がもはやキュリオというよりも昭和初期ですやん!という極端描写になってたなーと。雑多、猥雑、混沌、みたいなものをどしゃあっ!とキュリオ側に濃縮させました!みたいな見せ方で、このあたりは蜷川さんのカラーが如実に出た感じがしました。

かつて同じ村にいながらひとりはノクスに、ひとりはその村に残り続けたキュリオである生田草一と金田洋次、個人的にはこのふたりのやりとりに一番ぐっときたかなあ。ノクスの曽我夫妻はノクスの絶望に目をつぶり、結はキュリオの希望に目をつぶるけど、草一と洋次のふたりだけがこの物語の中で、ノクスとキュリオ双方の希望と絶望を見つめている。洋次が草一の手を取り、立たせ、土をはらってやるシーンが、個人的のこの芝居のベストシーンでした。

森繁の手首を切り落とすって行為をめぐる「帰ってきた元凶」の始末の付け方が結構ハードなんですけど、そのあとつらっと芝居が展開していくのが「えっ、そこはアッサリなんだ…」と思ったり。しかし、横田さん気持ちいいぐらいのクズでしたね…いやー振り切れたクズっぷりすばらしかったよ…

しかし、その中で森繁と鉄彦という、希望だけを見つめるふたりをがっつり見せてくれるあたりが蜷川御大の心の中には乙女がいるという由縁だよ!いやーキャッキャウフフだよーと先にご覧になった方から事前情報を頂いていて、「ノクスのともだちがほしいんです!」あたりでなーる…確かにキャッキャウフフ…駄菓子菓子!このキャッキャウフフがそれぞれの立場の違いから誤解やすれ違い、妬み嫉みが爆発して!暗雲が!そのうち!立ちこめる!立ちこめるはず!立ちこ…立ちこめねええええ!!!!最後の最後までキャッキャウフフやないかーーーい!!ってなりましたね、ええもう。

いや、それなりにぶつかり合うんですけどもね、ふたり。でもそれもどこかキャッキャウフフの延長線にしか見えないつーか…だって「もっと勉強できるノクスの世界に行きたい」「お前は今のままでじゅうぶんすばらしいよ」「それはお前がノクスだからそう言えるんだ!」とかさ!言い争ったあげくマウント取って「おまえが!変わらなきゃ!はじまらないんだよ!」とかさ!それでしまいにはひとつの傘を持って2人でどこまでも行こう、おれたちなら行ける、みたいなあれでしょ?もちろん搬入口全開でしょ?あーーねじ伏せられたーー気持ちよくねじ伏せられたーーって思ったよね…

ビシッとした黒の装いの成宮くんがドーベルマン系わんこ、白でちょっと抜け作な綾野くんが柴もふもふ系わんこって感じだったなー。途中、うんうんかわいいかわいい、かわいいが!すぎる!と思いました。思いましたとも。初舞台の前田敦子さん、いろいろと話題だったしわたし自身も「どんな芝居すんのかな」って興味津々だったところありましたが、「客の前で自分を晒す」という役者にとって絶対必要な肚の部分はしっかりできていてそこはさすがだなと。けどやっぱり手札の数が少ないという印象がどうしても残りますね。まだ極端な手札しか切れないので、大きく揺れてる芝居だけが印象に残る感じ。でもまあそれは今から経験値でもって手札の数を増やしていくのかなーと思います。

山崎さんや伊藤蘭さん、六平さんはさすがに見せる見せる。山崎さんとか、やっぱり舌を巻くうまさですよね。ほとんどトーンを変えていないようで、あの微妙な揺れをちゃんと伝えきるところがすごい。個人的には金田の役が大石継太さんだったのがすっごくうれしかったです!

*1:って書いてから思い出しましたけどBSかどっかで放送したやつ録画したんじゃなかったか…?あとで探そう←独り言かヨ!