「暗いところからやってくる」

  • とよはし芸術劇場 主ホール舞台上特設舞台 自由席
  • 作 前川知大 演出 小川絵梨子

初演が好評だったのか、今回は全国ツアーということで愛知県にもきてくれました。ありがたい。「こどもとおとなが一緒に楽しめる作品作り」を目指したということで、客席も半分以上が親子連れとおぼしき客。

亡くなった祖母が暮らしていた古い家に引っ越してきた輝夫たち家族。その古い家独特の、どことなく薄暗い空間に輝夫は言いしれぬ気味悪さを覚える。「暗いところから何かが見ているような気がするんだよ。」

いやー、頭から尻尾の先まで、子供たちをあきさせない、そして大人を退屈させない数々の作劇と演出のアイデアにひたすら唸らされました。「シンパシー」と「ワンダ−」の波状攻撃。冒頭で、開いた段ボール箱の漫画を読みあさってしまって全く片付けが進まない輝夫が母親に怒られる場面や、学校の宿題のことでやいやい言われる場面は、まさに小・中学生である彼らにとってシンパシー以外のなにものでもなく、そこに「日常の中の非日常」が顔を覗かせてくる持っていき方のうまさたるや。

冒頭の輝夫と姉と母親の三人のシーン、暗転を境に今度は「あるもの」達の存在を見せながらもう一回まったく同じシーンを繰り返すのですが、これを見せることによってこの後のシーンにおける「見えてないけど、いる」ということを観客に容易に想像させることができるんですよね。カーテンの揺れが何を意味し、突然倒れる段ボールが何を指すのか、観客は頭の中で勝手に「見て」くれる。さらに相当な長さのあるシーンを二度繰り返す、というテクニカルな面白さもあります。3人しかいなかった舞台に6人が乗り、しかし現実の3人はまるでビデオテープかのようにまったく同じことを繰り返す。芝居慣れしている人間にはそうでなくても、芝居に初めて触れるひとにはここにもある種「ワンダー」を感じたんじゃないかなあと。

前川さんは、奇譚、ともいうべきものを舞台に載せるときの匙加減がやっぱり絶妙ですね。オカルトに寄りすぎない、理に偏り過ぎないバランスが絶妙でした。今回も「暗いところからやってくる」ものの存在はけして否定せず(その解釈を場面場面の見せ方で善にも悪にもふれるようにみせるあたりもうまい)、けれど現実の中での「おばあちゃんのお金」という心の棘とリンクさせることによって皆の心にちゃんと落としどころを用意してくれるあたり、さすがです。

カーテンを使った巧みな演出や、おそらくは輝夫の夢であろうと思われる「おばあちゃん」の出現に、「あっカーテン」とか、「こわいこわい」とか、「どうやって段ボール倒したの?」みたいな、子どもの反応が声に出ちゃうところも結構あったのですが、それも楽し、という感じだったなー。いつもだったらいらっとしそうなものなんだけど、子どものいるところにお邪魔しにきてます、という気持ちだったからだろうか。そうだよねおばあちゃんこわいよね!とその子供たちの反応をによによしながら楽しみました。

それにしても、イキウメ大窪さんのあの得難い中学生感はすごい。子供らにはどんなふうに見えていたのかなー。浜田さんを「新入り」と紹介する岩本さんが、「まだ右も左もわからない、泥みたいなクズ」みたいな言葉で評したのが子供たちに大ウケで、そうかこういう直截な言葉ってやっぱ子ども大好きなんだなーと改めて感心したり。いつもの本公演とはまた違ったイキウメメンバーの活躍が見られてよかったです。

上演時間は70分。しかし、端折った感や物足りない感はまったくなく、ちゃんと「物語」を見た、という充足感があり、気持ちの良い集中力で最後まで見られた気がします。いやはや、すばらしいプロの仕事を見たという思いです。