「八月納涼歌舞伎」

第三部を拝見。「勢獅子」とNY凱旋公演の「怪談乳房榎」。怪談乳房榎はいずれもこの歌舞伎座の八月納涼歌舞伎で、勘三郎さんで一度、勘九郎さんで一度拝見したことがあります。

物語の筋を丁寧に追いかけて心情を積み重ねていくというよりは、重信、正助、三次の早替えという趣向が眼目、みたいなところがこの演目にはあると思うんですけど、前回勘九郎さんで見た時は、その一瞬にしてパッと華を見せるようなところで、どうしても勘三郎さんと引き比べて見てしまうところがこちらにもあって、楽しい演目だけれど、勘九郎さんの個性と合っているかはちょっと疑問符かなあ、と思っていたところもあったのですよ。

しかし、さすがというかなんというか、今回はある種の「ドヤ感」がきっちり備わっているというのか、趣向は趣向としてしっかりお見せしますよという部分がより際立っていた気がして、楽しませてもらったなー!という感じ。あの三次の花道の見得とかねえ、もう理屈じゃないかっこよさ、ほんと胸の前で手を組む乙女のポーズにもなるっちゅうねん。目もハートになるっちゅうねん。

獅童さんも前回同じ役で拝見したときより、今回のほうがぐっとよかった。三次といい浪江といい、悪い男が悪を尽くすのが昔からだいすきなんだな…と一緒に見ていた友人と頷きあったりしておりました。

舞台転換が多い演目なので、どうしても転換の間手持ち無沙汰になってしまうんだけど、今回はNY凱旋ということもあって、幕前で数々の小芝居を見せてくれ、飽きさせない工夫をしていたのも個人的には好きな趣向でした。本水を使用するということでビニールシートの使い方のレクチャーもしてくれてましたね。しかし、あのシーンの獅童さんと勘九郎さんはもう、やらずぶったくりもいいとこである。たのしい。

しかし、この演目の早替えはどれもすごいけど(すごすぎて、するっと流されちゃうところもあるぐらいに)、あの田島橋での三次と正助の早替えは、今回もう、ここしかない!というような席から見ていてもまったく何がどうなってるのかわからない。たぶん口ぽっかーんってなってたと思う。あそこだけは何度見ても新鮮に驚けます(笑)