「親愛なる我が総統」劇団チョコレートケーキ

  • サンモールスタジオ 全席自由
  • 脚本 古川健 演出 日澤雄介

偶然なんだけど、ここのところナチス・ドイツに関する作品にちょいちょい触れている。劇団チョコレートケーキは昨年「治天ノ君」が読売演劇大賞のラインナップに入っていたことで知って、タイミング合えば見てみたい、と思っていたら、作品のタイミングが合ったという感じ。

パラドックス定数の「東京裁判」をちょっと思い出させるなあと思いつつ、というのはもちろん第二次世界大戦における戦犯を描いているというのもありますが、少人数の男性のみの芝居、徹頭徹尾「言葉」で押してくるところも、相通じるものがあったような気がします。どちらも「お堅い」という意味ではなく「硬質な舞台」という感じ。

アウシュヴィッツ収容所の所長をつとめ、ユダヤ人問題の「最終的解決」、つまりこの地上からユダヤ人を1人残らず消し去るというそのひとりの男の思想の、実際に手となった男、ルドルフ・フェルディナンド・ヘスのポーランドにおける人民裁判の予備審問が舞台。

ヘスがなぜ、いかにして、あのような行為を行い、また行うことができたのか、それを紐解いていくわけですけれども、ヘスのおそろしいまでに客観的な、透徹したとでもいいたくなるほどの視線や視点でただ淡々と語られるんですよね。彼の審問に立ち会う精神科医も、わたしたちも、かれにあまりにも「ノイズ」がないことにひっかかりを感じてしまう。

自分の行為が誤りであったと自覚し、かつて提示された「最終的解決」のおぞましさと非現実さを把握し、自分の末路を認識している男。なぜ、そのようなことができたのか?それは彼が「悪魔」だったからなのか?人間の心を持っていなかったからなのか?それとも、我々は時と立場さえ違えば、誰でもがああした行為を行うことができるのだろうか?

ヘスを「人間」に戻すきっかけは、「我々もまた同じである」というシンプルすぎる原点で、だからこそ、民族や宗教や、その他の理由で「我々とは違う」と名付けてしまうことの危険さを感じさせられました。

もうひとつ興味深かったのは、戦後のポーランドにおけるソ連の影響力がしっかりと描かれていたことです。「HHhH」を読んだときにも思ったことだったのですが、東欧諸国が戦後共産主義国家への道をたどったのは、何よりもまずあの当時のソビエトが「ナチからの解放者」であったがゆえなんだなと。歴史には必ず、作用、反作用の波がある。高校時代の世界史の教師の言葉を思い出したりして。

最後につけ加えますが、バタヴィア判事役の西尾友樹さん、どうかと思うほどいい声ですね。どうかと思いました。何もかもを深く理解しているようで、その実ただ絶望の淵に立つかれの「バカバカしくて」という言葉、胸に沁みました。