「三人姉妹」

ケラさん×チェーホフ第2弾。三谷さんの「桜の園」もそうでしたが、好きな演出家がやってくれる機会を捉えないとなかなかチェーホフに足を踏み入れようとしないだろうな〜、と「かもめ」に引き続き拝見させていただきました。

いや、しかし、おもしろかった!なんとなく「三姉妹がやたらモスクワに行きたがる話」という理解しかしておらず*1、こんな話だったのか…!という部分もふくめてスリリングに楽しみました。今のところチェーホフにはなんとなくポジティブな印象を持ててるんですが、そのなかでもこれがいちばん面白かったかもしれない。

拝見したのが初日でしたので、前半はなんとなく皆さん硬さがあるかなと思うところもあったのですが、二幕から俄然波に乗ってきた印象。でもって、「かもめ」のときもそうだけど、決定的なシーンは基本的に実際には見せないところが実はすごくツボなんだなと気がつきました。場が変わる度に「そこにいたるまでにあった何か」を自分の脳内で思い描ける楽しさがありますよね。

二幕の面白さは、ナターシャという「この家にとっての外部要因」がどんどんこの家そのものを塗り替えていくところと、それによって巻き起こる姉弟たちのひずみが描かれるところにあると思うんですが、そのナターシャをやった神野三鈴がとにかくすさまじく、垢抜けない田舎娘から成り上がりの女主人まで、まあ千変万化の声で見せる見せる。地続きのトーンで途端にドスが効いてくるあの声、ほんとすごい。でもそのナターシャに防戦一方なのではなくて、これに宮沢りえ演じるマーシャが頑として相対峙するのがドラマとしてほんと見応えありました。いやー宮沢りえ、硬軟自在とはこのことか。視線を集めるだけでなく、確実に笑いを取り、ヴェルシーニンとの恋模様ではきゅんとさせる。ほんとすばらしいです。

でもって、三人姉妹って三人の姉妹の話かと思ってたら(まあ、そうなんだけど)、真ん中に弟がいるんですね!でもってこのアンドレイが結構重要なポイントを占めている役で、ここに赤堀さんをあててるのがすごくよかったんだよなー。なんとなく、もっと華奢な役者が当てられそうなポジションだとおもうんだけど、赤堀さんがやるからこその「爆発寸前な空気」がすごく効いていたと思う。あの「ぼくの言うことを信じちゃいけない」というシーンめちゃくちゃよかった…!

モスクワに行きたい、モスクワに行けさえすれば、という姉妹の思いは郷愁というよりも「ここではないどこかへ」という憧憬であって、だからこそ「ここ」しかないのだと遂に彼女らが立ち上がる姿がとても印象的でした。夢見る時代はおわった、ということなのか。

堤さん、段田さん、近藤公園さん、今井朋彦さんとまさに盤石の布陣でしたね。初日ならではというか、カーテンコールでの皆さんのちょっとホッとしたような表情もすごくよかったです!!

*1:確実に第三舞台の「新劇病」の影響