「ベター・ハーフ」

鴻上さんが本多で新作、ときいてエッ本多!とまずそこに食いついてしまったという。鴻上さんが本多でやるの久しぶりなんじゃないでしょうか?第三舞台時代に、本多でなかなか快心のあたりが出ず「本多は連戦連敗ですね」といわれたことがある…というような記憶までもがずるずると引っ張り出される病。

鴻上さんはああ見えて(どう見えて)恋愛、というものへの探求心、そこでの人間の心の機微、みたいなものにものすごく興味があるひとだと思うんですが、今回は登場人物の4人いずれにもどこか極端なところと、そうではないところが存在して描かれているのがよかったです。たいてい、この芝居だと諏訪と遙のようなポジションのキャラクターにストーリーラインが寄ってしまうことが多い気がするんですが、むしろ汀と沖村にシンパシーの成分を多く描いていたとおもうし、また汀というキャラクターの描き方についてはやっぱりさすがだなあと。これはまさに鴻上さんの味ですよね。

鴻上さんらしいといえば、誰かがハッピーになり、ちがう誰かがアンハッピーになる、というような決着ではなく、傷つき傷つけて、それでやっと一歩進める、というような展開になったところも、らしいなあと思ったところでした。

汀をやったのは中村中さんで、劇中の歌一発で観客の心を音がするほどぐっとつかんでいく様がすごい。あれに勝てるものはなかなかない。諏訪をやったのは風間俊介くんで、もちろん文句なしのイケメンであり芝居巧者なんだけど、個人的にぎゃーっとおもったのは歌手としてデビューした汀の楽屋を訪れて、鏡越しに汀と会話するところ。めったに見せない風間君の「ザ・これがジャニーズだ!」みたいなキメ顔に「わー!わー!ありがたい!今ありがたいものを観ている!」と大騒ぎしました心の中で。面目ない。

包丁を持ち出して死ぬの死なないの、ベランダから飛び降りるの飛び降りないの、のシュチュエーションをシリアスにならずに描く、というのは鴻上さんの得意技だと思うんですけど、今回もそれを遺憾なく発揮されてましたし、包丁のシーンはどうやってもケイとユタカを思い出さずにはいられないわたしだ。当人同士は必死なのに、どこか滑稽、そういう視点がありますよね。

片桐さん演じるの沖村の哀切と打たれ強さもとてもよかったし、真野さんみたいな女の子にドギツイ台詞をいわせるあたりも鴻上節といった感じでした。鴻上さんぜひまた本多でもやってくださいな。