「グッドバイ」KERA・MAP

原作は太宰治の遺作「グッド・バイ」。この芝居をご覧になった方で、原作の方は読んでない、という方はぜひ原作も読んでみてくださいとオススメしたい。あっという間に読めます、なにせ未完なんで。青空文庫にもありますから!

あの太宰治の未完の遺作でタイトルが「グッド・バイ」…っていう情報だけを連ねると、すごい重いモノを感じてしまう方もいるやもなんですが、読んでくだされば(そしてこの芝居をご覧になれば)おわかりのとおり、むちゃくちゃ、面白いんです。今回の舞台、太宰が書いたところまではほぼ、そのまんまやってくれてます。フクスイとハイスイも原作通り、おそれいりまめも原作通り*1

とはいえ、原作の敷いたレールからケラさんの手になる本に踏み出したところからは、やっぱりケラさんワールドで、私がかつてこの物語の「先」を想像したのとは違う方向にハンドルが切られていくのが最高に痛快で面白かったです。

情けないが愛嬌のある男性と、美しくしたたかな(でもどこか弱みもある)女性を描かせるとケラさんはほんっとーにうまい!!と今までも何回も思っているんですが今回も思いました。グッドバイと告げていくはずの田島が次々と愛人達に愛想を尽かされる、その愛人達各々の去り際の描き方がすごくいいですよね。その愛人を演じる役者がそれぞれ素晴らしく、緒川たまきさんの女医のキレ、門脇麦ちゃんの純朴さとしたたかさ、妻を演じた水野美紀さん、夏帆ちゃん、ほんっとにみんな魅力的!

しかし今回なんといっても、キヌ子を演じた小池栄子さんの輝きを語らずにはいられない。着飾ればりゅうとした美人、でも口を開けば鴉声の大食漢。キヌ子のしたたかさはこの原作における面白さの大きな部分を占めていると思うんだけど、まさにキヌ子だ!と思わせるがさつさと美しさの共存ぶりを体現しているだけでなく、その底にある彼女の可愛らしさも存分に味わわせてくれていて、本当にすばらしいとしか言いようがない。もう、小池栄子を拝みたいとすら思う私だ。

仲村トオルのてんでダメなのに愛されちゃう魅力、途中露悪に走るものの結局は好青年な清川を演じた萩原聖人、そして忘れちゃならない池谷のぶえの変幻自在ぶり!ケラ作品常連の山崎一さんは言わずもがな、絶妙なタイミングでの会話の妙を堪能させてくれる達者な役者たち、劇場の高さを意識した機能的なセット、小野寺さんによる振付、高い次元のスタッフワークによる充実した芝居、いや満足しないわけないですよこれ。

ケラさんにしては、というのか、最後までロマンチックコメディを貫いたエンディングで、見ていた観客もほくほくした気持ちで劇場をあとにできた芝居でした!

*1:ちなみにここ、原作の「わあ!なんというゲスな駄じゃれ。全く、田島は気が狂いそう。」ってとこ、何度読んでも笑ってしまう