「消失」NYLON100℃

11年ぶりの再演、キャストも11年前と変わらず。初演は大阪で観ました。過去に観たナイロンの作品の中でも印象深い一本ですし、DVDも買っています。細かい台詞のやりとりでの微修正はあるものの、筋書きもセットも初演を踏襲。演じる役者の年齢に合わせて、劇中の人物の年齢も引き上げられている。初演は休憩なしの2時間45分、今回は15分の休憩ありの3時間5分。初演は紀伊国屋ホール、今回は本多でセットの間口がすこしゆったりしているように見える。

初演を観て、今回の再演も観劇した観客の多くが、この劇中での彼らを取り巻く世界が「どこかわからない、いつかわからない、どこか遠い未来の」ものではないことを、じわじわと、ひたひたと感じたのではないでしょうか。そしてだからこそ、この悪人が出てこない世界、兄弟と、そこを訪れる二人の女と二人の男たちの、どこかはからずもゆがんでしまったピュアネスに一層胸を打たれたんじゃないかと思います。

「ツインズ」の感想でも書きましたが、水道の水を飲む、という行為で世界観をある程度指し示せるし、そのアイデアをどちらの劇作家も採用しているのがおもしろい。

登場人物は6人ですが、それが舞台上「2人」になる場面で大きく話が進展することが多く、つまりそれぞれの組み合わせでの台詞の応酬があるわけですが、それがどの、どこの組み合わせでも同じように強固に、ぐいぐい物語を推進していくのがほんとうにすごい。弱いところが一切ない。終盤のスワンレイクとチャズのかなり長いやりとり、劇中の彼らに引っ張られて胸を苦しくさせながらも、大倉くんとイヌコさんのうまさに「至福のやりとりを観ているな今…」と思ったりして。ほんとうに6人それぞれが言い尽くせないほどすばらしかった。

「消失」が初演を観た人の心に引きずるような残像を今も残しているのは、ラストシーンの演出の見事さにもあるんじゃないかと思います。実際どうなるかを知りながら観ても、今までそこにいたのに、今はもういないひとたちの影だけが浮かび上がるあのラストシーンには震えますし、あの余韻からなかなか帰ってこられない。

私は初演DVDに収録されている特典映像が大好きで、これだけ何度も繰り返し見るほど大好きなんですが(こちらのエントリ参照)、だからこそあのビーチボールをめぐるスタンの台詞にわーっと感情がたかぶってしまってまいった。ネアンデルタール人の話をした、って台詞でなんで涙ぐんでいるんだ、と思いながらも、でもやっぱいいシーンだよなって思うんです。まだ観たことない方にはぜひ!とおすすめしたいです(っていろんなところで宣伝しまくるわたし!)