「乱鶯」

今回はいのうえ歌舞伎<黒>(black)ということで、脚本が倉持さん、本格時代劇!です!という謳い文句。古田さんが文句なしのどセンター、芯を張っての新橋演舞場ということで、出かけてまいりました。いやー、「一本気な男だねえ!」というのは熱海殺人事件の台詞ですが、「一本気なホンだねえ!」と思わず声をかけたくなるような芝居でしたね。

盗みはすれども非道はせず、いわば「盗みのプロ」「盗みの美学」を貫く盗賊の頭目「鶯の十三郎」。狙った大きな仕事で仲間の裏切りに遭い、瀕死の重傷を負う。そんな十三郎を助ける侍と、小さな縄のれんを営む夫婦、その恩義に報いるため、盗みからはすっぱり足を洗い、料理人としてカタギになるが…という筋書き。一幕75分、二幕115分で、相当に長尺ですが、このまっすぐな構成で見せきっているのはなかなかすごいですね。二幕なんか、展開としてはもう相当早い段階で筋道が見えてくるんですけど、それでもその道をぐいぐい押していくものなあ。

十三郎は後半、いわば二重スパイとして立ち振る舞うことになるわけですが、個人的にはこの設定をもう少し活かしたものが見たかったなという気もします。「日取りを聞き出す」→「過去の因縁含めて告白する」→「話が漏れているのが漏れる!」までの展開が一本気すぎるというか、まっつぐすぎるというか、せっかく二重スパイなのだから、誤解や葛藤、権謀術数がもっと渦巻いてもよかったのでは…という。黒部があの店に噛んでいることまでつかんでいるのに十三郎ちょっとノーガードすぎない!?みたいな。誰であれ、善に転がるにせよ、悪に転がるにせよ、相克というか、自分の中の何かを越えた上での決断、というところがメインキャラクターのどこかにあると、ぐっと身を乗り出しちゃう私としては、そこは食い足りなかったところでした。

いのうえさんの演出はやっぱり演舞場とすごく相性がいいんだと思う。個人的に他のどの劇場で見るよりそう思う(笑)。今回は地方公演はプロセニアムな劇場が予定されているので、当然ながら花道使いに遠慮が見られましたね…そのかわりこれでもか!と盆を回していたね。セットとセットの背面をうまく路地みたいに見せて奥行き見せるのとか、うまいですよねえ。

古田さんが芯で、しかも、「めっちゃ、強い!」という設定なので、最初の立ち回りも、最後の立ち回りも、あーー強い強い強い、ほんと何度でもいうけど古田さんの殺陣は他の誰よりその振りも突きも「重量」がちゃんとあって、斬られてる、これはしぬ、という感じがすごくする、そこが本当に見ていて「もっとやってつかーーーさーーーい!」ってなるところです。轟天vs五右衛門では(後半化けることもあって)立ち回り充、とまではいかなかったので、いやー今回相当充たされた感。でもって、渋い役どころではありつつも、無邪気な勝之助とのコンビでボケを拾う立場に回っていたりもして、そのあたりの立ち振る舞いの確かさも堪能、堪能しました。

そういえば古田さんも1カ所もんのすごい噛んだ(うえに、そのままぐんぐん進んだ)けど、珍しく!粟根さんが「盗賊」と「幽霊」をテレコにしてしまうという言い間違いがあり、あっ貴重なものを…と思いました。粟根さん、楽しそうだったね。早々に死んじゃうけど、死んでからが本番だったね。じゅんさんの火縄の砂吉、救いようのない悪党でしたけど、甘い物に目がないっていう性格付けがひとつあるのが効いてたな。大谷亮介さん、いやーいい声、いい声、いい声(3回言った)。言葉の重みハンパない。しかし、黒部は源三郎の正体に気がついているであろうに(だよね?)あそこで西瓜さげて来ちゃうのは、なにゆえ…と若干腑に落ちなかった。大東くん、必死で食らいついているさまが勝之助のキャラクターとうまいことシンクロしていて、はまっていたんじゃないでしょうか。観劇したのは13日の昼の部でしたが、大東くん30歳のお誕生日!ということで、カーテンコール時にみんなでハピバースデー歌いました。おめでとうございやす!