「四月花形歌舞伎 夜の部」

◆浮かれ心中
原作は井上ひさしの「手鎖心中」。原作未読なのでこれが舞台のみの脚色なのかそうでないのかは定かでないんですが、「籠釣瓶花街酔醒」ががっつり下敷きになっていて、わーこれは籠釣瓶好きにはたまらん趣向やな!と思いました。

実力はないが、カネはある(但し、親の金)、ええしのボンが、戯作者にオレはなる!とばかりに起こすあれやこれやの騒動。つまるところ、本を売るため、売るには自分の知名度をあげなきゃいけない、という発想からの売名行為の数々から起こるあれやこれやなんですが、その構造自体が相当にシニカルといえばシニカル。でもそこをぐりぐり押してくる感じは薄かったですね。主人公の栄次郎は、普通に見れば鼻持ちならないやつに見えそうなものなのに、なんともいえない愛嬌と悪気の無さ(悪気の無さって時に罪ですけどね)で乗り切っちゃうし、いわゆる愛されキャラな部分が強く、勘九郎さんもその「ゆるされちゃう」人物像をうまく体現していたなーと思います。でもって、太助という役がなかなか面白い立ち位置だったんですけど、これ、三津五郎さんが演じてらっしゃったと知ってポンと膝を打ちたい気持ち。なるほど栄次郎と太助にはそういう表裏というか、運命共同体のようなふたりが似合うよなあと思いました。

籠釣瓶にも出てくる帚木の花魁道中(あそこでかむろの襟首掴んで止めちゃう勘九郎さんのニタリ顔たるや!)、七三の笑み、そこで太助の「家に帰るがいやになった」とまるっきりそのまんまの構図が出てくるのワクワクしましたし、身請けされて、でも間夫とも切れずいつかは…と算段する帚木っていうのも、籠釣瓶の「あったかもしれないその後」みたいでよかったなあ。

最後には、現実が茶番の襟首を捉えてしまう展開になるんだけど、ここで花魁だけが助かり現世に戻っていくってところでの「おいらん、そりゃああんまりそでなかろうぜ」!!!う、うまい!!ここでこの台詞持ってくるか!!なんつう御馳走!!勘九郎さん「夜ごとに変わる枕の数…」と続けて「ハァーーッやりたいねえ。ああやりたい」。やって!!!やってよ!!!(大興奮)いやーだって私菊之助さんの八ツ橋、勘九郎さんの次郎左衛門での実現をもう相当前から心待ちにしてますしおすし!

最後のちゅう乗りではほんとにニコニコ楽しそうな栄次郎、「はー気持ちいい。澤瀉屋さんの気持ちがわかるね。今頃博多で飛んでるよー会いたいなー」などとかわいらしい発言から、今日はおばあさんの命日だからね、久しぶりに会えるわーとほろりとする発言もあり。途中で落ちそうになるとこも仕込みなんだろうな(笑)

美しくて気立てのいい女房、おすずの菊之助さんよかったです。あの喧嘩のフリやって!やって!できないできない!からの変わり身のキレ味はさすがですし文字通り会場が揺れるほどの爆笑をさらってましたね。ギャップ萌えってことのこと!?(多分違う)堅物のお役人をやった亀蔵さんとのやりとりとか、なんかプチ「笑の大学」みたいな構図だったなー。お堅いあまりにもっともぶっ飛んだ方向を思いついちゃうっていうのも面白かった。

題材としてはもっと今日的に仕上げる方向もあったのかなーと思うけど、それはそれとして芸の力で楽しく見られた演目でした!