「BENT」

  • 京都劇場 S列17番
  • 作 マーティン・シャーマン 演出 森新太郎

今までいろんなキャスト、いろんな演出家で上演されていると思うんですけど、この作品を拝見するの、実は初めて。映画にもなってましたが、そちらも未見。

ベルリンで享楽的な生活を送っていたマックス。彼の運命はある日一変する。ダンサーの恋人と住んでいたアパートにSSが踏みこみ、彼らは間一髪逃げ出す。そしてナチスドイツが、ゲイを収容所送りの対象としていることを知り、逃亡生活を送ることになる…

割と人の出入りのある1幕と、ほぼ2人芝居となる2幕の対比がすごい。ことに2幕の展開は、相当に実力のある役者さんでないと説得力をもってみせることは難しいだろうと思いました。石を上手から下手へ、そして下手から上手へと運ぶという動きだけですし、その労働をしながらの会話だけでひっぱっていかなくてはならず、そして会話だけでふたりの間の精神的な繋がりだけではなく、身体的な繋がりも表現しなくてはいけない。

切符は2枚でなきゃだめだ、と叔父の差し伸べた手を断ったマックスが、実際の暴力を目の当たりにして、恋人であるルディを知り合いではないと言い続ける。ここはキツイ場面でした。けれどそこで生き延びるために人間の尊厳を捨てたはずのマックスが、ホルストとの交流によっていつの間にかその尊厳を取り戻し、だからこそ、再度その尊厳が傷つけられた時には、彼はもうそれをもう一度捨て去ることはしない、という展開が切ない。

しかし、北村有起哉さんはうまいな!本当に腕が確か。マックスにピンクトライアングルをつけるべきだ、という自信の信念をぶつけることはやめないけれど、同時に彼を深く愛しているという複雑さをあますところなく表現していた。1幕しか出ないキャストも多くいる中、充実した座組での観劇でした。