「遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」

  • 兵庫県立芸術センター中ホール 1階Q列4番
  • 作・演出 前川知大

奇ッ怪シリーズも第三弾。今回の題材は遠野物語。日本によく似たどこかの世界、近未来におこるかもしれない(おこらないかもしれない)出来事のなかで語られる「物語」の意味。

冒頭の山内さん(=イノウエ)の語りから、「方言」というものに着目させ、その土着の言語によって語られる物語に引っ張っていきます。物語の中心にいるのは仲村トオルさん演じるヤナギダ。言うまでもなく、モチーフは柳田國男その人です。標準化政策と称し、標準語以外のすべての方言が記されることを禁じられた世界、真実以外は書き残してはならない世界、その世界のなかでヤナギダは遠野地方に伝えられる伝承を書き残し、逮捕される。それが果たして真実なのか虚偽なのか、イノウエと警察による審判が行われる。

スズキという語り部を通して語られるその遠野の物語。それ自体を解釈したり、紐解いたりということよりも、なぜ人が物語ったのか、という視点に集束させていくところが、なんともうまい。でもってこのシリーズは、そうした作品としての面白さはもちろん、ふっと異界のものに触れたような感覚を味わわせてくれるところがすごおおく好きなんですよね。今回でいうと谷底から聞こえる「おもしろいぞー」の声とか。そしてあの、「渡しましたからね」という台詞によって感じられる輪廻、連鎖の輪みたいなもの。

以前、鴻上さんが、人間は到底理解できないつらい現実と向き合ったとき、物語にすがろうとする、それは若いころの自分には理解できなかったけれど、時を経てその心情がわかるようになった…と言っていたことがあって、それを思い出しました。物語は人の心を癒しも殺しもする。神隠しという物語で救われるものがあるように、そこで切り捨てられる心もある。そういう構図を、ヤナギダとイノウエを通して浮かび上がらせる、そしてあの「渡しましたからね」。

瀬戸康史くん、訛りの見事さも舌を巻いたし、ほわほわとした語りで憑依体質の不思議な佇まいを醸し出していてよかったです。あれだ、わたし、舞台で拝見するの初かなとか思ってたけど、八犬伝出てたね…(コラー!)仲村トオルさんはこのシリーズには欠かせないですね。この「怪」を描く作品と、いつもどこかに「陽」を感じさせるトオルさんのカラーのマッチングはいつ見ても絶妙。銀粉蝶さんの存在感の大きさ、そして池谷のぶえさまー!なんつーいい声―!のぶえさんの声はほんとにごちそうです。ありがとうございます。

このシリーズ大好きなんですが、三部作でキリよく終わりだったりするのかしら。まだまだいろんな「怪」を見てみたい気もしますけども。