「かもめ」

アルカージナに佐藤オリエさん、ニーナに満島ひかりさん、山路和弘さんに田中圭さんに中島朋子さんに坂口健太郎さんに…とまあ、豪華な顔ぶれ。そういえば、ケラさんのチェーホフシリーズはあと2本あるはずだけどその後どうなんですかね(関係無)

セットは基本的にシンプル、舞台をさらに小さく見せる枠組みと、2枚の幕と椅子。熊林さんの演出、これで2本目かな?拝見するのは。個人的にはかなり奇策に走ったなあという感じがしました。2幕冒頭のアルカージナの佇まい(楽屋での休憩中さながら)や、舞台上の椅子に座って役者が待機しているところからして、おそらく入れ子の構造でみせる、という意図があるんだろうけど、わかりやすい記号なしに舞台に乗せているので見てるほうにはちょっと戸惑うところがありましたね。あと、ものすごくドタバタだった。ドタバタになっちゃう、のならいいんだけど、意図してドタバタにしているので、これは相当好みがわかれるところだと思います。やっぱりいいセリフは落ち着いて聞かせてもらいたいという欲求もあるしね。あと、これは「おそるべき親たち」のときも思ったけど、欲求、欲望の表現が非常に直截的ですよね〜。けれど、エロスが不思議と薄い。もっとさりげない表現でも、ひえ〜!ドえろい!と感じさせる演出家もいるので、ここらへんは演出家のカラーが如実に出るところかもしれない。

満島さんのニーナ、坂口くんのトレープレフ、いずれも熱演だったけど、何しろきちっと姿勢をきめてセリフを言う、という場面自体が少ないので(ものすごく床に転がってるか座ってるかする時間が多い)、ここぞという場面でセリフが前に出ないきらいはあった。4幕のニーナはまさにこの役のしどころはここに集中してると思うんだけど、もう少し客席にその熱演の熱を放出するベクトルが欲しかった気はしたかな〜。ひかりちゃん、めっちゃうまいんだけどね。私はかもめ、いいえそうじゃない、っていう、有名な台詞のキレの良さたるやすばらしかったし。

佐藤オリエさんの硬質な芝居がすごく好きなので、アルカージナのセリフはもっとたっぷりと聞きたかったなあ、という気もしました。ただ、ニーナとトリゴーリンがいるところをじっと見つめる芝居の空恐ろしさとかさすがの貫禄でしたけども。山路さんのドールンも非常に魅力があってよかった。なによりあの声!はー。いつまででも聞いていられる。田中圭さんの声も落ち着いててよかったね。トリゴーリンには若いかな?とも思ったけど、そのぶんニーナに惹かれる心情は飲み込みやすかった。というか、トリゴーリンが若いだけに、その作家としての未来をシニカルに語る場面が非常に印象に残ったかな。なかなかいい作家だ、けれどツルゲーネフほどじゃない…。あれはチェーホフ自身の思いでもあったんでしょうね。