「この世界の片隅に」


能年ちゃん…じゃなく、のんさんが主人公の「すず」さんの声をあてているらしい、ということは知っていたんですけど、積極的に見に行くつもりではなかったのに、これもネットで公開するやいなや熱い推薦の声が続いて、マジかー、そんなにかー、とこちらも年の瀬にぎゅうぎゅうのスケジュールの間を縫って見に行ってきました。

泣けるといえばもちろん泣けるんですが、それよりも見終わった後まず思ったのは「両親に見てもらいたいな」ってことでした。うちの父は昭和一桁生まれ、母もちょうど終戦時に劇中のはるみちゃんと同じぐらいの年。自分が過ごした「時代」のことをもう一度覗き見ることができるんじゃないだろうかと思ったからです。それほどまでに、この映画で描かれた「生活」のディティールは圧倒的です。

ドラマはもちろんあるのですが、でも言葉にしてあらすじを語ろうとすると、簡単な要約にしかならない。そしてその要約ではこの映画のほとんどすべてがその手のひらからこぼれてしまうような気がします。呉にお嫁にいったすずさん。出戻りのおねえさんとちょっとそりがあわないすずさん。ものがなくなっていく中で工夫してごはんを作り、繕い物をするすずさん。ほのかな恋心をひそかにしまっているすずさん…。あの、呉の町を襲った空襲も、最初の防空壕づくりはなんとなく牧歌的ですらあり、ほんとにアメリカが攻めて来たりするのかしら…?という空気があるのが、なんともリアルだなと思いました。あの炸裂する爆弾の色を見ながら、すずさんが「今、絵の具があったら」と考えるシーンはこの映画の中でもきわめて印象的です。

あの終戦宣言を聞いて流す涙が、悲しさよりも、安堵よりも、吹き上がるような怒りであること、何も知らない、ぼうっとした自分のまま死にたかった、というところ、ほんとに胸がつまりました。

すずは、北條さんの顔も知らないまま、嫁にとのぞまれて呉に嫁いでくるわけだけど、でも見ているほうは、あの人さらいのかごにいた子だってわかってるわけで、個人的にはラストシーンでそこを一瞬「物語」でくるむような描写があったのがめちゃくちゃぐっときました。見てよかったです。