「キャバレー」

  • EXシアター六本木 B1F4列33番
  • 上演台本・演出 松尾スズキ

松尾さん演出のキャバレ―が10年前!?ウソでしょ!?ってこういう再演物のたびに言ってる気がしますがほんとに10年前の実感ない。再演のニュース聞いて、そうかーうーむどうしようかなーと迷っていて結局チケット取り損ねていたのですが、お友達に声をかけていただいたので東京公演千秋楽にお邪魔してきましたのです。

取り損ねたというか、即座に確保という判断にならなかったのは、やっぱりどこか10年前のキャバレーにしっくりきていなかったところがあったのは否めないところです。うまく伝わるかわかんないんですけど、松尾さんオリジナルの作品を観ているときの楽しさと、ミュージカルの「キャバレー」を観ているときの楽しさと、そのどちらをも超えてこなかったという感じがしてしまったんですよねえ。

しかし、今回はそこをすごくうまく折り合いをつけているというか、ミュージカルとしての高揚感もしっかりありつつ、松尾テイストも失わず、ですごく楽しんで観ることができました。個人的には、これはやはりMCに石丸幹二さんをもってきたことが大きいように思います。やはりミュージカルとしての板の上での居方を把握していらっしゃる、歌のうまさはもちろんですが、ミュージカルとして舞台を成立させるためのキーを握ってらっしゃったなあと。荒廃したベルリンの町中にある看板からMCがぬけだしてきて、そしてまたその看板の中に帰っていく…という構図も大大大好き。

長澤まさみさんのセクシーな衣装ばっかりニュースでは取り沙汰されてましたが、前半のコケティッシュなナンバーは文字通り彼女の魅力が爆発していて、歌にも踊りにも華やかさがあって素晴らしかったです。私は最後の「キャバレー」のナンバーに込められたなんともいえない切なさが大好きなので、そこはもう一声!と思うところもありましたが、ベルリンから出ていけないサリーの、どうにもならないという諦念のようなものが、あの笑顔の底に見えるようで非常に心に残りました。

このあとに起こることを観客が知っているので、なおさら、ということもありますが、一幕の幕切れ、Tomorrow Belongs to Meのナンバーの旋律の美しさと相反する不穏な空気の描き方なぞ、さすが!と言いたくなるキレのある演出。幕切れの去っていくクリフと、蒼ざめた中に漂うベルリンの街の人々…というシーンもよかったなあ。

秋山さん、小松さん、村杉さん、紙ちゃんは前回から続投。しかしこの4人も相当年齢不詳やな!そしてこの4人の体現する「松尾ワールド」の強さね!それぞれにユーモアを失わせず、とはいえ時代の中で別れていく立場が徐々に4人に影を落とす見せ方もよかったです。

千秋楽だったので、松尾さんがカーテンコールでステージに現れ、「秋山さんの持っているパイナップルにペンを刺したら、受けるだろうな」という誘惑に最後まで打ち克つことができました!と高らかに仰っていて笑いました。全体の演出も、演者のバランスも、「ミュージカル」としてしっかりキャラを立てつつも松尾さんのカラーがふんだんに香ってくる仕上がりで、とても満足しました。お声がけいただいて感謝!です!