「猿若祭二月大歌舞伎 昼の部」

「猿若江戸の初櫓」。先月観た「足跡姫」が、二代目だか三代目だかの出雲阿国がお城(江戸城)にあがって殿様に踊りを見せる、ことを夢見る部分がある、ということと、そのあとに描かれる展開と相まって、この演目自体はもちろん観るのは初めてではないんだけど、ちょっと猿若と阿国の心情が自分の身に入りすぎて、このおめでたい一幕で涙しそうになってしまった私でした。勘九郎さんの踊りは本当にいつ見ても魅力的。

 「大商蛭子島」。おおあきないひるがこじまと読みます。初見。おそらく、今回の昼の部は中村座所縁の演目が選ばれていると思われ、おかげで今まで触れることのなかった演目が立て続けに観られておもしろかったです。松緑さんが女好きの寺子屋の師匠、じつは、という役どころなんですが、その旦那の浮気ぶりに悋気する奥さんが話の中心にあったのがおもしろかった。正体を知って思い切ろうとするんだけどそれができずに気持ちに隙ができちゃうかなしい女性。勘九郎さんは前半べらんめえな坊主の役で、後半は北条時政できりっと出てくるという一粒で二度おいしい役どころ。髑髏の杯で酒を飲め、というところで「あっ天魔王と蘭兵衛…!」と思った私がいてもしょうがない。しょうがない。

「四千両小判梅葉」。これも初見。おもしろかったです!江戸城の御金蔵破りを描いているんだけど、普通の白波物とは一味違う「悪党」の描かれ方。主犯の富蔵の人物の大きさが気持ち良いので、楽しんで観られますし、なんといっても大牢の場面がすんばらしい!!実際に当時のディティールをふんだんに織り込まれて書かれているそうですが、まさに細部に神は宿る、って言葉を痛感しますね。番号を読むところ、金を出させるところ、牢名主の存在感、圧倒的な縦社会と出来上がったルール。菊五郎さん文字通りのはまり役!梅玉さんの情けないんだけどなんかほっとけない佇まいもよかった。おふたりとも声が良いので耳の御馳走でもあったなあ。