ラ・ラ・ランド


昨年暮れあたりからオスカー戦線の最有力候補で名前があがってるよって言われて見たあのポスター、あの完璧な構図の、うわーこれ見たい!と思ってずーっと楽しみにしていました(あのポスターの何が完璧って、ライアン・ゴズリングの左手の角度だと思う)。

初日のレイトショーで見てきたんですが、冒頭の10分ぐらいで予告編の印象的なシーンが立て続けに出るのにびっくりしながらも、何しろド頭の2曲、Another Day Of Sun と Someone In The Crowdがミュージカルナンバーとしての完成度が高すぎてもうそこだけで相当な満足感。いやもうあの高速道路のシーン(『南部高速道路』思い出したりして)でトラックからバンドが出てくるところでまず感極まるし、あの現実の世界に戻る時のクラクションの音の演出も良いし、Someone In The Crowdはもうこれ舞台だったら絶対ショーストッパーソングだよね。あの音楽の高まりと花火!最高じゃんすか!

二人が出会って、ジャズが嫌いな女の子なんかって言ってたセブがミアに恋をして、ジャズなんて嫌いって言ってたミアはセブに恋をしてジャズを好きになって、あのオーディションでひどいめにあったミアが「理由なき反抗」をかけてる劇場の前を通ってセブとの約束のこと思い出してちょっと救われる、あそこすごくよかった。緑のドレスで、レストランのBGMで自分の気持ちに気が付いて走り出しちゃうミアほんとにきれいだったな…!

お母さんに電話をかけてるミアの言葉にちょっと傷ついて、でもなんとかしようと思って「大人になる」セブの選択もわかるし、脚本を書いたらって言われて走り出したミアとすれ違っちゃうのもわかるし、でもセブはきみは優越感から不遇のぼくを好きになったんだろってひどいこと言っちゃうけど、ミアの未来を勝手に切り捨てるようなことはしなかったんだよ、図書館の前で、どの家にいるかもわからないミアに向かって合図のクラクションを鳴らしてくれるんだよ。

あの、ちゃんと目を見て挨拶してくれるオーディションで、台詞はない、何か語って、と言われたミアが語る雪のパリのセーヌの話…もう、エマ・ストーン、まさに圧巻というべきナンバー、すばらしいシーンでした。ものを作るってことは情熱と狂気がつきもので、その狂気に魅入られてしまう人たちがいて、その「どうしようもなさ」へ向ける愛の歌。なにかを作る、作らないではいられないという人たち、そしてそういう人たちの情熱と狂気に惹かれたことのある人にはひとしく胸を打つナンバーなんじゃないでしょうか。

私がこのラ・ラ・ランドでうおおおおおっと叫びたくなるほど胸震えたのは最後のシークエンスでした。あの刹那、それぞれが「あったかもしれない人生」、沢木耕太郎さんの言葉を借りれば「使われなかった人生」を思う。あったかもしれない人生への愛おしさに震え、あったかもしれない人生の思い出に浸る。あの刹那、ふたりを結び付けた旋律の中で、ミアとセブはそれを共有するのだ。そしてもちろん、その共有した感情は一瞬のうちに消え去る。「だがそれを悲しんではならない。あなたが感じた愛おしさは真実なのだ」…。

鮮やかな色彩、美しい音楽、あったかもしれない人生のあったかもしれない物語、あなたにも、わたしにも、そういう物語はきっとあり、その人生への愛おしさを感じさせてくれる、すばらしい映画でした。ぜひ映画館でご覧になってください!!!