「髑髏城の七人 season花」


かつて新感線が初めて新橋演舞場に進出したとき、「あの新感線が、ここまできたか…!」と勝手に胸熱になったものですが、そこからさらに十数年を経て、日本初(世界2例目)の「回る劇場」の、しかも「1年間のロングラン公演」を託されるまでになるとは。思えば遠くにきたもんだ。
劇場の機構そのものが話題を呼んでいる、というのもあるので、芝居の感想は後述するとして、劇場周りの感想を先に箇条書き。

  • とにかく最寄りの駅にはなんにもないから!!!と先達の皆様のアドバイスのおかげもあり、心構え万端で行けてありがたかったです。あとなんにもない、っていうのでほんとに荒野にぽつーんみたいなのを想像していたんですが、周りに建物がないわけじゃないのね(当たり前だよ!)ただ、人が入っている建物がないってだけでね…あんなに立派なのができてるのね…なんなら駐車場だけでもシアターアラウンド用に開放してシャトルバスとか走らせてみたらと無責任なことを思いました
  • これも先達の皆様のおかげと思われますが、劇場前と劇場内ロビーにベンチの設置が多数。ただ劇場前は夏は暑くしてしぬだろう(よげん)
  • 5列目ほぼセンター、前は通路という芝居好きなら誰でも喜ぶ席でしたが、回転中の転落防止のためなんでしょう、舞台の縁に囲いのようなものがあり、舞台はそれよりも10センチほど低いので、この座席で足元が全く見えない。足元が見えないばかりか、低い位置での芝居はまず見えない。
  • おそらくこの縁の構造のためか、フットライトがなく、また舞台袖からの明かりもない(そりゃそうですよね)ので、照明の印象が相当違います!ここはもうちょっと工夫があった方がいいのではと思った。なんとなく平板な印象を受けてしまいました
  • 回転そのものは動き出した瞬間にズゥン…とした感覚はあるものの、個人的にはまったく気にならず。前方はスクリーンの役目も果たしており、その映像との相乗効果もあいまって、実際よりも「動いている」感覚がかなりあり、アトラクション色が強いです
  • 舞台の間口はスクリーンの開閉で決められるのですが、当然ですけど大きく間口が開いた方が断然気持ちがいいです。それこそがこの劇場でしかできない「絵」だと思いますし、狭い間口で展開するシーンはサイドの客は結構見切れてしまうのでは
  • 劇場全体の動線はさほど気にならず。椅子も赤坂アクトよりは良い、というかさすがに振動に強くできているなという感じ

個人的に今後の鳥風月でもっとも改善を望むのは照明と立ち回りの見せ方ですね。なにしろ前方席ほど足元が見えず、足元が見えないどころか「なんだか刀持ってワイワイやってんな」ぐらいの距離感しかないので、だったら大きく間口を取って縦横無尽に動き回るぐらいの絵面がほしいところ。いのうえさんの演出は照明でハッタリ効かす部分もかなりあるので、明かりが平板だとケレンがケレンにならないわよう、と思ったり。

ここからは芝居の感想。ネタバレするので、お気をつけて。

「髑髏城の七人」自体は初演が1990年、その後97年と04年、11年と再演を重ねてきているわけですが、11年の上演時に大きく形を変えたところがあって、それが「本来捨之介と天魔王は一人二役でやるところを、キャストをそれぞれ分ける」という方向転換をしたんですよね。で、もともとそういう構造じゃなかったのに、骨組みを足したことによる綻びがもはや大きくなりすぎてるという印象を否めませんでした。

もちろんこれは私が初期の構図が好きで、何より全新感線の作品のなかで1997年の「髑髏城の七人」こそが不動の第1位であるという、めんどくさい古参の言い分(自分で自分を古参っつーのどうかと思うけど、もはや新規ぶるほうが逆にふてぶてしいが過ぎるかなと)なのかもしれません。なのでひとつの意見として聞き流していただければ幸いです。

ここまで骨組みを足した(蘭の役を大きく取り上げ極楽との関係性を書き足している、天魔王と捨が「同じ顔」ではないことで蘭を含む3人の関係性を書き足している、沙霧が捨に不信感を抱いて傷を負わせる展開を残すために捨と熊木衆の関係を書き足している等々)にもかかわらず、過去の上演の「名シーン」はそのまま残そうとしているので、どうにも展開が強引なんですよね。例えば牢にとらわれた捨を沙霧が看破するシーンがありますが、あれは敗北を悟った天魔王が「捨に化けて城を脱出しようとする」ことに意味があるわけで、身代わりにして仮面をかぶせて仲間に斬らせるってのはどうにも弱い(だって仮面を取ったら別人てわかりますやん!)。顔を分からなくしたうえで、その看破するシーンだけを残しているので、鎧を着せて夢見酒を飲ませてかつ沙霧にぶっとばされて目が覚める的なそんな段階を踏まなきゃそのシーンに到達せず、しかも劇的な効果も薄い。同じ人物がやるんでないなら、あのシーンの効果はほとんどないと言っていいと思います。沙霧と捨にはそういうシーンがいくつかありますが、全部極楽の「女にはわかるのものよ」的な台詞でまとめられていて、おいー!としか言いようがない。

極楽と兵庫も、もうあそこまで蘭と極楽の関係をがっつり書くなら最後思い出したように「りんどうよ、本当の名前はりんどう。これからはそう呼んで」とか、もういっそなくていい(だってそこまで兵庫と極楽の間になんか生まれる気配ありました!?ないよねえ!?)し、あと最後の天魔王との対決、斬鎧剣は相手が全身南蛮ものの鎧で覆われているからこそ、「最初の太刀で鎧を砕く」必要があるわけじゃないですか。出てるじゃん。顔、がっつり出てるじゃん。そんなめんどくさいことしなくても喉を突けよ!もしくは鉄砲でドタマに風穴開けろよ!とか思ってしまうわけですよ。

あと、沙霧に関して言うとわざわざ目の前で爺と父ちゃんを殺す必要ある…?ってのも思ったな…だって冒頭でもう死んだと思って弔ってるじゃん。残虐さを出したいなら一時でも夢を見させた後で突き落とした方がよっぽど効果あると思うけど、そんな掘り下げもなかったしなあ。

あとねえ、古田が贋鉄斎をやるんなら、やっぱり本気の百人斬りを見たかったよ私は…。もはや百人斬りの意味あるんでしょうか。舞台間口も狭いし(そりゃあの趣向ならそうなりますわな)、席の関係もあってほぼ上半身しか見えないし、あそこからの一気呵成の展開が髑髏城の花じゃないですか。血が滾る瞬間じゃないですか。ここでマジにならなくてどうするんだよお!

もうひとつ(まだあるのかよぉ)、これはもう座組全体の問題つーかそれでどうにかなるのかわかんないけど、個人的にはもっと、もっと笑いがほしい。というか、笑いを取らない(取れない)なら昔のギャグは切ってほしい。新感線ってどんだけマジ展開になっても、その照れくささみたいなものを笑いで払拭して、観客の心をオープンにしてくれたから、どんな少年ジャンプ展開でも受け止められたし、胸を熱くできたところがあった気がするんですよ。最後の対決シーンの最後に贋鉄斎に「肌に無理なく深剃りが効く、うーんかっこいい!」って言わせる度量がほしい。あたしゃ欲しいよ(誰だよ)。

役者さんについて。小栗捨、前回の時よりはキャラ造形が身の丈に合っている印象。めっちゃ強い感じはしない。ただ殺陣は今回のほうがスピード・キレがあって好きです。台詞がちゃんと聞こえるのはえらい。成河天魔、かなり卑屈な天魔王キャラ斬新。足が不自由という表現もあいまってリチャード三世感がすごい。立ち回りもよかったがそれよりも拳でいたぶる時の方がくるってる感あってよかった。時々中に右近さんいる?と思ったり思わなかったり。山本蘭、さすがに板の上での観客の呼吸を把握する力がすごい。ド直球にかっこいい役をド直球にかっこよくやっている。結果、どちゃんこかっこいい。中でも無界屋襲撃の際はドSぶりに立ち回りの度に袖で刀を拭う神経質そうな仕草も加味されて歴代蘭の中でも最高峰ではないかと思うほどにキャラ造形が立っていてすばらしかったです。ただ朴念仁には見えないw

近藤狸穴、うまい!流石の場数。狸穴二郎衛門のキャラにも合ってるし、実は、となってからのぶっ返り具合もはまっていてよかったです。「新式もきかんのか」あたりの飄々とした佇まいもすき〜〜〜。りょう極楽、声が良いですね〜。口跡も明瞭。美しく気風のある姉御肌ははまっていた。清野沙霧、すばらしい身体能力、できればそれをもっと堪能したかったくらいです。沙霧の役はもうちょっと前面に出されていいんだよ!おばちゃんはそう思うよ!青木兵庫、辛いこと言うよ、なぜならわたしはじゅんさん兵庫原理主義者だから。正直今回のキャストでもっともつらいところでした。兵庫という役は最初コメディリリーフに見えていても、中盤から終盤にかけてぐいぐい話のセンターに出てくる役なので、そして「七人」のエモーショナルな部分を相当背負っているので、そこを背負って立ちつつ、笑いに軸足もおかなきゃいけない。難しい役なんですよ!青木くん繊細な芝居は勿論うまいと思うけど、なにさまかけてるリボンが小さすぎる。つまるところ伝わらないし、観客の呼吸が読めてない。あと、これは青木くん全くわるくないけど、磯平とのバランスがどうなのかって感じもあるなあ。あの展開もキャストによって書き換え時なのではという気もしました。

古田贋鉄。格が違うってのはこういうことなのかって感じでしたね。新感線の芝居に出るとはこういうこと、笑いを取るとはこういうこと、ひとりでそれを体現していた感。だからこそね…百人斬りをね…(まだ言う)。

カーテンコールはぐるーーっと回りながら各場面場面で主要キャストが佇むという、こういうのどこかで見た…あっ、ディズニーランド!?イッツアスモールワールド!?と思ったとか思わなかったとか。それも含めてアトラクション感は最後まで強かったです。

次は阿部サダヲを捨に据えての「鳥」ですが、いやもうせっかくどうでも捨のキャラが変わるんだから、ホンも今までのエピに固執しないでバンバン切って直してほしい気がします。未來&太一でこれも11年版のコンビなだけに、もう一回似たようなのやんないでねって感じはある。せっかくの4シーズンロングランなので、そこは制作側の意地を見たい!です!